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「ゼロ・グラビティ / GRAVITY」(2013年) 制作舞台裏・VFXメイキング [映画]

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「トゥモロー ワールド / Children of Men」(06年)で一躍名を馳せたアルフォンソ・キュアロン監督最新作「ゼロ・グラビティ / GRAVITY」。ハッブル宇宙望遠鏡の修理中にロシアのミサイルが破壊した衛星のデブリ(宇宙ゴミ)によって発生したケスラーシンドロームに巻き込まれたクルーの脱出(帰還)劇。

サンドラ・ブロック演じるライアン・ストーンとジョージ・クルーニー演じるマット・コワルスキーの二人のみで展開される本作。劇中の半分以上が宇宙空間を背景に描かれるため必然的に本作は3DCGを基本としたVFX主導の映画として制作される事となった。

import_arriflex_765_02_det_01[1].jpg撮影は大半がARRI ALEXAシリーズのカメラで行われ、1シーンのみをArriflex 765による65mm(写真右)での撮影となった。65mmでの撮影についてはどのシーンであるかは明示されていないが本作の制作舞台裏を見ていけばある程度予想できる筈である。
マスターフォーマットは2kでIMAX DIGITAL 3D他ドルビーアトモス対応スクリーンでの上映もされている。

宇宙空間、そして無重力の描写が大半を占める本作。これまでにも「2001年宇宙の旅」「アポロ13」等現実に基づいた宇宙描写に対して本作的に取り組んだ映画は幾つかあったが、アナログ、デジタルのどちらにせよ従来の撮影方法では本作の制作は不可能だった。それはキュアロン監督自らジョームズ・キャメロンに尋ねた際「技術が出来るまで待て」と言われた程。本作の製作期間は4年半とあるが何もキュアロン監督はその間待っていたわけではなかった。

本作を観た人はお分かりだろうが「トゥモロー・ワールド」で賞賛されたキュアロン監督の手法の一つである長回し撮影は本作でも健在で、今回は何と最長で13分近くもの長回しが行われているのだが、宇宙空間で縦横無尽に13分もの長回しの映像を作ろうとした場合当然それらの大部分はCGで行われる事となる。そしていくらCGとはいえ基本的には人の手によって作られるのであり、13分もの宇宙空間での長回し映像を作る場合そこにおける人物、宇宙船、ハッブル宇宙望遠鏡、背景の宇宙空間、そして何よりも大事な「太陽の位置とその光源」は全て手作業で計算しなければならないのである。これがフルCGでの映像ならばそこまで問題ではないだろう。だがこのシーンではカメラが縦横無尽に引きと寄りを繰り返し、事前に撮影した俳優自身の顔をCGの映像と組み合わせなければならないため、CGの映像と切り抜いた顔の部分の照明が一致していなければならないのである。

そのためキュアロン監督は本作のVFXの大半を担当したFRAMESTOREのティム・ウェバーとの共同開発の末LEDの照明により擬似的に宇宙空間を作り出す「LIghtbox」を制作した。これは4,096個のLED電球を敷き詰めたパネル169枚を高さ約6メートル、幅約3メートルの立方体に配置し、LEDの照明によって擬似的な宇宙空間を作り出すというものである。
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奥にISSが映っているのが確認できるだろう。中で俳優が演技をすることによってグリーンバック撮影のような不便さが解消され、擬似的とはいえ自分の周りに宇宙空間が形成されているため演技の手助けにもなっているのである。手前に映っている巨大な黒い物体はBot & Dolly社開発の多間接アーム「IRIS」システム。このIRISの先端にカメラを設置しLightbox内で縦横無尽に動き回る事によって冒頭のカメラワークが実現できている。コンピューターでプログラミング制御されるその精度は見事なもの。
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IRISによる試験映像

0:06の部分で内側の間接が完全に静止しているのが分かるだろうか。

展示会でのIRISの様子


これらIRISとLightboxによる撮影を踏まえると本編が違った見方で見えてくるはずである。

宇宙空間における照明の問題は解決したが、残る大きな問題は「無重力」の表現である。無重力をアナログ手法で実現させる方法は幾つかあるが、キュアロン監督の長回しの手法を考えると「アポロ13」で使用されたような地球の重力下で無重力環境を発生させる「嘔吐彗星」では25秒間しか無重力状態が生まれないのでLightboxの仕様も考えると現実的ではない。

そこで、本作の特殊効果監修である二ール・コーボールドは「インセプション」でも使われたような従来のワイヤーよって俳優を吊り下げる事によって無重力を演出する方法をさらに進め、振り子運動が生まれにくい12本のワイヤーによる装置を10ヶ月掛けて開発した。

「インセプション」の無重力シーン

肩に4本、腰に6本、足首に2本のワイヤーを装着し複数人のパペッティアによってアナログ手法としては映画史上最も自然な無重力表現が可能となっている。
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そして、このニール・コーボールド。その名前にピンときた人もいるだろうが「ダークナイト三部作」で御馴染み、高層ビルが立ち並ぶシカゴのど真ん中で巨大なトラックを実際に宙返りさせた張本人「クリス・コーボールド」の兄弟である。
もう一人の兄弟としてポール・コーボールドがいるのだが、こちらも「キャプテン・アメリカ」「スカイフォール」「マイティ・ソー ダークワールド」等で特殊効果監修を担当している第一線級の人物である。

「IRIS」「Lightbox」「ワイヤー装置」。これらによって本作「ゼロ・グラビティ」は映画史上最もリアルな宇宙を描き、同時にこれからのVFX業界の流れを大きく変えていく事になっていくのだろう。

もう一つ言及しておきたいのが本作の音響についてなのだが。真空である宇宙空間を舞台にした場合、音は自身の肉体を通じてのみ聞こえるものであり、物理的な接点の無い物体の発する音は基本的には聞こえないものである。数多あるSF映画でそれを徹底している作品は数えるほどで、これは無重力描写にも言える事である。最近では「スタートレック」(09年)の1シーンで無音状態が演出されていたが、SF大作ではどうしてもそういったリアリティよりケレン味の方が優先されてしまうため、金のかかってしまうSF映画でそういった演出を見る機会がなかなか無かったのである。

しかし、本作では全編を通して音についてもリアリズムが追求され、徹底して無音状態が再現される事となった。そしてこれが見事に功を奏しているのである。デブリによって破壊されるスペーズシャトル、ISS、ソユーズ、天宮。作業をしている宇宙飛行士の背後で音も無く巨大な物体が高速で回転し形象崩壊しあたり一面に飛散する。音が聞こえないことが逆に臨場感を増し、現実感を与え、恐怖を倍増させる。本当に素晴らしい演出である。

他にも、本作のVFXを理解する足がかりとして観ておいた方が良い作品が幾つかあり、本作のパンフレットの解説にも色々と掲載されていたが、やはり真っ先に思い浮かぶのは「2001年宇宙の旅」だろう。徹底したリアリズムを追及するキューブリック監督作にしてSF映画の代表格。その内容や表現方法含め本作はここから始まったといっても過言ではないだろう。そして本作を同じく現実を舞台にして「嘔吐彗星」によって実際に無重力下で撮影を行った「アポロ13」。キュアロン監督の前作であり長回し撮影が話題となった「トゥモローワールド」。「トゥモローワールド」に関しては北米版のBDの画質が素晴らしいのでオススメである。そして、劇中の冒頭にも登場しサンドラ扮するライアンが修理を行っているハッブル宇宙望遠鏡が登場する「ハッブル3D」


この「ハッブル3D」は是非とも観てもらいたいもので、ハッブル宇宙望遠鏡がどのようなものか、そして宇宙飛行のNASAでの訓練、実際の宇宙での活動の様子などがIMAXカメラによって撮影されており、本作を観ているかどうかで「ゼロ・グラビティ」の印象は大きく変わるだろう。因みに本編に登場している宇宙飛行士であるマイク・マッシミノ氏は実は本作の「ゼロ・グラビティ」のアドバイザーとしても参加している。

アドバイザーとして参加した、ハッブル宇宙望遠鏡延命修理に参加したマイク・マッシミノ氏と第26次ISS長期滞在メンバーだったキャスリン・グレース "キャンディ"コールマン氏インタビュー


そして先にも挙げたクリストファー・ノーラン監督作「インセプション」。ここでは無重力下の映像は全てアナログ手法で擬似的に表現されており本編以外にもメイキング等を観てもらうと「ゼロ・グラビティ」のワイヤー装置がどれほど進歩しているかが良く分かるだろう。

それと本作のスピンオフ短編として劇中のとあるシーンを別の視点で描いた以下の短編があるので本編を観た人は観てみると良いだろう。

「アニンガ / Aningaaq」


他にも紹介したいものは多々あるのだが一つずつ紹介していくときりが無いので以下それぞれ列挙していく。これら以外にも「gravity vfx」などで検索すると沢山出てくるので興味がある人は探してみるといい。

参考資料
恐怖と感動に震える宇宙漂流映画『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督にインタビュー
ロボット工学やLEDを映画撮影に取り入れたアルフォンソ・キュアロン監督に「ゼロ・グラビティ」についてインタビュー
映画『ゼロ・グラビティ』がすごい理由 プロデューサーのデヴィッド・ヘイマンに聞く
史上最高のスペース・サスペンス・エンターテイメント映画「ゼロ・グラビティ」! 宇宙空間の無重力、孤独を表現する映画言語と発明について、アルフォンソ・キュアロン監督が語る!
【監督インタビュー】映画『ゼロ・グラビティ』を生み出した父息子の二人三脚

メイキング映像 ※ネタバレ注意※


FramestoreによるVFX解説
http://www.framestore.com/work/gravity
Read more:のリンク先からさらに詳細へ

RISING SUN PICTURESによるVFX解説※ネタバレ注意※
以下リンクのview breakdowns をクリック
http://www.rsp.com.au/portfolio/gravity.htm

ポスプロ時の3D変換を担当したPrime Focusによる解説

Prime Focusのサイト

CG制作を担当したFramestoreスタッフへのインタビュー


The Making of Gravity
ティム・ウェバー インタビュー
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