『アイカツフレンズ!』 の演出について [アニメ]
前回『アイカツ!』第133話における五十嵐達也のコンテ・演出について。
『アイカツフレンズ!』がとうとう始まってしまった。さらに言えば本作の監督を務める五十嵐達也の初の4クールTVアニメ作品が始まった。以前アイカツに絵コンテと演出で参加していた時期の五十嵐達也についての記事を書いていたが、この度、というかまさかのアイカツ新シリーズの監督抜擢である。制作側にどの様な思惑があるのかは分からないが取り敢えずは任せられるという事なのだろう。
氏はTVアニメの監督として『THE UNLIMITED 兵部京介(2013)』で1クールの作品を担当している様なのだが残念ながら私は観た事が無いので氏にTVアニメという長期の作品をまとめられる才能があるかどうかは全く分からない。以前書いた上記の記事の様に絵コンテ、演出として参加する分には五十嵐達也は素晴らしい才能を発揮する。特にその両方を担当している時の切れ味は正に興味深いの一言に尽きる。本当にいろんな意味で面白い演出をする人という印象が強い。
だが、演出としての才能はあっても4クールのTVアニメ作品をまとめられるかどうかはまた別の話である。特に本作の様におもちゃの販売と連動して展開するタイプの作品は非常に制約が多く、商品展開に物語が大きく影響される事等が多々ある。そのためそういったイレギュラーな部分を如何にTVアニメ側に無理なく落とし込めるかが作品として成功するかどうかの大きな鍵となる。
そして残念な事に前作の『アイカツスターズ!』はそれが完全に失敗していた。いや、あれは筐体の商品展開どうのこうの以前の問題でそもそもTVアニメとしてあらゆる部分が意味を為していない、後先を考えずその場限りで全てを取り繕い終わった後には何も残らないアニメ史上でも類を見ない完全なる失敗作、ゴミと言ってもいい。『アイカツスターズ!』は100話かけて作り上げられた産業廃棄物である。存在意義は無い。
閑話休題。終わった話はもう止めようか。
五十嵐達也が4クールアニメという長期の作品をまとめられるかは未知数である。少なくとも視聴者にとっては。ただ不安なのは長期的な完成度であり、先に書いたように氏は演出が出来る人なので短期的な部分、つまりは1話毎の完成度について不安は無い。寧ろ期待のほうが大きい。そして出てきたモノはこちらの期待通りのモノだった。
『アイカツフレンズ!』第1話は堅実な作りだ。これまでのシリーズ作品、具体的には星宮いちご、大空あかり、虹野ゆめという三人の主役の物語の要素を上手く取り入れながら従来のアイカツ作品から近すぎず離れすぎず、全てが新しいが今まで通りのアイカツにもなっている。意地悪な言い方をすれば可も無く不可もなくという按配でもある。一つだけ違うのが今作はユニットベースでアイカツを行っていくという点だろうか。
堅実な作りという言葉の通り第1話を観た限りではアクロバティックな展開やアバンギャルドな設定は無さそうだ。主人公が家で飼っているペンギンが若干不安の種ではあるが。演出も地に足のついたもので台詞選びや心理描写、主人公がアイドルの道へ進む動機付けも無理が無い。逆に言えばちょっと安牌過ぎて拍子抜けしたくらいである。
とは言いながらも観ている最中はアイカツの新シリーズの第1話がしっかりした作りで進んでいくという事実にずっと感激してしまって終始笑みがこぼれてしまう状態だったのだが。まあ第1話が始まる前はまともな作品になるかどうか本当に不安で仕方が無かったのでその反動でもあるのだが。なのでアイカツ新シリーズの第1話としては太鼓判の押せる出来ではありつつももう少し冒険して欲しかったというのが正直なところ。期待していた五十嵐達也監督の色は今後に期待するとしよう。
そんな中で第1話の中で取り上げておきたい事が一つあった。先の五十嵐達也についての記事に書いていた様に氏の演出には女児アニメ作品では見かけない類のものが多々見受けられる。これまでのシリーズ作品でも観ながら気になった、引っかかった演出というのは大抵五十嵐達也が絵コンテや演出を担当している事が殆どだった。そして『アイカツフレンズ!』第1話も事前情報を知らないまま観ていたら氏が担当した様な演出があったので、まさかと思ったら案の定第1話の絵コンテを担当していたのである。
Aパートの最後で主人公の友希あいね(ピンク髪)と湊みお(青髪)が公園にいるシーンでみおの電話が鳴るのだが、この時あいねはみおが電話に出て話し始めたのを確認してその場を離れようとする。親睦を深めたといっても出会ってまだ幾ばくもない他人同士である。電話というプライベートな会話は当人同士にとっては耳に入れるのを遠慮してしまうのが心情であり、またマナーもである。
湊みおは恐らく自身のアイドル活動について拘りが強い部分があり、その一方で他人の目をあまり気にしないような振る舞いが見受けられる。ほぼ他人と言える友希あいねのすぐ隣で躊躇せず電話に出てしまうという所にそれが良く表れている。一方ですぐ隣に立っていたあいねは他人の通話に対するマナーからかその場を離れようとする。あいねは思った事が顔に出てしまいかつ口に出してしまう様な実直さが見られるがそれは同時に人としての素直さに溢れているとも言える。だからこそあいねはマナーとして通話するみおから離れようとする。このシーンはホンの数秒なのだが言葉も無く表情だけでこの二人の人間性が垣間見えるような演出になっているのである。
私はこのシーンを観た時思わず膝を打った。
これが観たかったのである。アイカツに求めていたのはこれだったのだ。こういうのが観たかったのである。『アイカツスターズ!』が100話かけて出来なかった事がたったの数秒で出来ていたのだ。こういう「ふとした事で滲み出る人間性」が演出の本質であり本懐である。これが「演出する」という事である。このシーンを見たとき間違いなく五十嵐達也が絵コンテを描いているだろうと確信したが正にその通りだった。そしてそれは見事に功を奏していた。
『アイカツフレンズ!』の第1話は堅実で無難な作りだがそこには確かなものが存在している。監督としての五十嵐達也がこの先どの様なアイカツを見せてくれるかはまだ分からないがこの第1話を見せられた今では不安は殆ど無くなった。寧ろ期待のほうが大きい。第2話が待ち遠しくて仕方が無い。
因みに3DCGライブパートについてだがモデリングについては『アイカツスターズ!』をそのまま発展させたような3DCGモデルになっておりサンライズD.I.Dスタジオの特徴が良く出ているものになっていた。なので不安定は部分はそのままに大分改善はされているもののぎこちない部分もまだまだ散見される。OPの3DCGパートについてはカット単位で入念に調整されているので本編の3DCGライブパートよりも遥かにクオリティが高いので最終的にはOPのクオリティを本編に持ってきて欲しい所。引き続きサンライズD.I.Dスタジオには頑張って頂きたい。EDが全て3DCGで制作されているのは驚いたがつまりあれは「イケる」と判断したからなのだろう。従来の様に静止画メインのEDの方が手間がかからないのでこの冒険は素直に評価したい(どの立場だ)。
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