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なぜ「インターステラー」を観るために海外のIMAXシアターへ行くのか。 [映画]

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※2015年8月現在シドニーIMAXシアターで「最後の」フィルムIMAXリバイバル上映が行われているので興味がある人は以下リンク先を一読して頂きたい。
[改訂版]シドニーIMAX旅行のススメ
http://smith-kun.blog.so-net.ne.jp/2014-12-10


デジタル上映に先駆け11月5日から15/70mmのフィルム版が先行して上映されている本作。海外では240館で先行上映され、平日にも拘わらずたった1日で1億7千万円以上の興行成績を記録するなど期待値の高さが伺える。IMAX版を観るために海外へ行く人もいるようでノーラン最新作という事も相俟って年末に向かって海外渡航組も増えそうな感じである。







おそらく映画館で映画を観るという事にそれほど熱心ではないような人からすれば映画を観るために海外へ行くという行為は奇異に映るだろう。何故そこまでするのか。まあ、客観的に見ても頭がおかしいという事については同意である。では何故この様な「頭のおかしい人々」が存在するのか。答えは色々あるだろう。特にIMAXという規格が日本で広く認知され始めた今日なら。ただ、個人的に言わせてもらうなら答えは一つしかない。

「映画館で映画を観るとはそういう事だ」

物理的に山を二つ超えて自転車で40分以上かかる距離に映画館がある実家での生活において「映画を観る」という行為は正に一大イベントだった。都心に近いのに地下鉄を使って40分以上かかる距離にしか映画館の無い名古屋に出てきた後も「映画を観る」という行為が気合の伴うものである事は変わらなかった。だから私にとって映画を観に海外へ行くという行為はその延長でしかなかった。東京や大阪に住んでいる人は違うのかもしれない。だがどんなに立地条件が良かろうと「映画館へ行く」という事が特別なことである事には変わらない。ここ数年で映画館での鑑賞回数は飛躍的に増え映画館での鑑賞は日常的になりつつあったが「映画は映画館で観るもの」という想いは年を重ねるごとに強くなっていった。家でBD、DVDを観るのも良い。でもやはりそれは映画館とは全くの別物だ。

インターステラーの話に戻ろう。
そもそもIMAXとは何か。IMAXとは「規格」である。その規格も様々なものがあるのでここでは割愛するが、現在ではIMAXは大きく二つに分類できる。「フィルム」と「デジタル」である。そしてフィルムで上映を行っているものを「IMAXシアター」と呼び、デジタル映写システムで上映を行っているものを「IMAXデジタルシアター」と呼ぶ。現在日本に存在している「IMAXシアター」は所沢航空発祥記念館や名古屋港水族館といったドキュメンタリー作品や専用コンテンツを取り扱っているものに限られ、所謂一般の「劇映画」を上映しているIMAXシアターはもはや存在しない。そもそも今存在しているそれらのIMAXシアターがフィルムで上映しているかどうかも分からない。

一方IMAXデジタルシアターは川崎、菖蒲、箕面、名古屋を筆頭に現在も増え続けている。IMAXデジタルシアターは映写機がデジタルデータのみを扱う様になっているのでフィルムのIMAX映写機とは別物となる。ではどう違うのか分かりやすい例を挙げてみる。

・ダークナイト
・ダークナイト ライジング
・トランスフォーマー リベンジ
・ミッションインポッシブル:ゴーストプロトコル
・ハンガーゲーム2
・スタートレック イントゥダークネス
・インターステラー

これら7作品は部分的に「IMAXカメラ」で撮影されている。IMAXカメラにもフィルムとデジタルが存在するが、上記の作品はフィルムIMAXカメラで撮影されている。フィルムのIMAXカメラは通常の映画撮影で使われるカメラと少々異なる。従来の映画撮影は基本的に35mmのフィルムが使われ予算のかかった大作では70mmのフィルムが使われてきた。フィルムで撮影するカメラは基本的にフィルムを縦方向に回して使うもので、IMAXカメラはその70mmフィルムを縦ではなく横に送ることによってフィルムの使用面積を拡大しているのである。そしてこれは基本的にドキュメンタリー作品などに使われるのが一般的だった。
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画像にある「15P」というのは「15perforation」の意味で15個分の穴を指している。
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フィルムの使用面積が増えることによって情報量が増し、より鮮明な映像が撮影できる。それがフィルムIMAXカメラの利点である。そして、それまでドキュメンタリー作品等にしか使われていなかったフィルムIMAXカメラを劇映画作品に初めて使用した映画が、かの「ダークナイト」である。冒頭の銀行強盗シーン、中盤のカーチェイス、病院爆破シーンなど計28分。フィルムIMAXカメラによるビジュアルショックがどれほどのものだったかはご存知の通りである。

そしてフィルムIMAXカメラで撮影された映画はIMAXシアターでこそ、その真価を発揮する。フィルムIMAXカメラで撮影された映像は1.43:1のアスペクト比となるため一般的な映画のサイズである「シネスコ(2.35:1)」「ビスタ(1.78:1)」よりも縦長になる。そのため一般の映画館ではそのままでは上映できないのでIMAXカメラの映像をそのまま上映するにはフィルムIMAXの映写機を設置している映画館で上映するしかない。
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そう、IMAXシアターの存在意義とは「70mmのフィルムIMAXカメラで撮影された映像をそのままの形態で上映できる事」にある。

では、IMAXデジタルシアターの場合どうなるのか。現在IMAXデジタルの映写機はシネスコとビスタにしか対応していないのでIMAXカメラで撮影された作品を上映する場合はビスタサイズが限界となり、はみ出る上下の部分は基本的に「切り捨てられる」。そのため上記の7作品を日本のIMAXデジタルシアターで観る場合は上下をカットされたものを観るしかない。「ダークナイト」などのBDの映像がシネスコとビスタの混在になっているのはそのせいである。

そして日本のIMAXデジタルの映写機は今のところ全て「2K」となっている。2Kとは解像度の事だが、これは市販されているBlu-rayの映画とほぼ同じである。対するフィルムIMAXはフィルムなので明確な数字があるわけではないが推定「8K」とされている。1920×1080(デジタル)と7680×5370(フィルム)。同じIMAXでもフィルムとデジタルでこれほどの差が存在するのである。この8Kという解像度、そんなに必要なのかと思われるかもしれないがそもそもIMAXシアターとは巨大なスクリーンで上映する事を前提とした規格なのである。
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現在日本最大とされている成田のIMAXデジタルシアターは縦が14m。対して以前稼動していたフィルムIMAXシアターの品川は16m、新宿は18m、そして天保山は20m。比較図を見てもらえばIMAXシアターのスクリーンが如何に「縦に大きい」かが分かるだろう。これで「ダークナイト」を観た状態を想像して欲しい。それまで2.35:1のシネスコだった画面がIMAXシーンになった途端縦のサイズが2倍近くになるのである。しかもIMAXシアターの場合一般的な映画館よりもスクリーンと座席の距離が非常に近いのでその臨場感は半端ではない。「度肝を抜かれる」とは正にこの事。

IMAXシアターではフィルムIMAXカメラと同様に上映に使用されるフィルムも同じく15/70mm(70mmフィルムの15perforation)となっているので画像の一番外側にあるシドニーの30m級のスクリーンに投影しても8Kの解像度によって映像が全くぼやけることなく、寧ろ圧倒的に鮮明な映像を映すことが出来るのである。DVDやBDの普及によってデジタルの方が綺麗という認識が広がってしまっているが、IMAXのフィルムとデジタルでは圧倒的にフィルムの方が鮮明なのである。

新宿、品川、天保山のIMAXシアターが閉館してしまった現在、フィルムIMAXカメラで撮影された15/70mm上映の作品を日本で観ることは出来ないのだが、実は上記の内6作品は日本でまともに公開されたことが無い。唯一つ「ダークナイト」だけは大阪の天保山のスクリーンで試写会として一度だけ15/70mmのフィルムIMAX版が上映された事がある。私がIMAXの事を知ったのはその後だったので後の祭りだったのだが。

前述したとおり現在日本で一番大きいIMAXデジタルシアターは成田の24.5×14mのスクリーンである。ビスタサイズとしても日本最大なのでフィルムIMAX撮影作品を鑑賞するにはうってつけである。「インターステラー」も成田で観るのがベストだろう。

だが、それは「監督が本来意図したモノ」では無い。

15/70mmで撮影しているという事は15/70mmの映像をそのまま上映する事を前提としているからだ。ましてやIMAXデジタルは2Kである。解像度が大幅に落とされた上に画面がトリミングされるその状態は果たしてその作品の本質を一体どれだけ表現できているのか。IMAXシアターで観たことがある人はお分かりだろうが「とても同じものとは思えない」。初めてIMAXシアターを見た時はそのスクリーンの大きさに圧倒されたものだがそこに写された映像も圧倒的だった。


「インターステラー」のIMAXにおけるアスペクト比を調べると以下のように記されている。
・1.44 : 1 (some scenes: IMAX 70mm version)
・1.90 : 1 (some scenes: IMAX digital version)
・2.20 : 1 (70 mm version)
・2.35 : 1
IMAX con.jpg
これは15/70mm上映時では通常のシーンが2.20:1でIMAXシーンが1.44:1、IMAXデジタル上映時では通常シーンが2.35:1でIMAXシーンが1.90:1となっている。画像の黒枠は通常撮影シーンである。

フィルムとデジタルの違いが良く分かる画像があったのでこれを見てもらうと分かりやすい。
[クリックで拡大]
interstellar.jpg
引用元Interstellar release formats - in a nutshell
画像にあるフィルムの解像度は撮影時のポジフィルムなのでネガフィルムによる上映時は解像度が半分になる。先に書いたように国内のIMAXデジタルシアターは現状全て2Kなので注意。なお2015年秋に開業する109シネマズ大阪エキスポシティのIMAXデジタルシアターではIMAX4Kプロジェクターでの上映となる予定。

前回にも書いたがIMAXシアターは世界的に現在デジタル化が進んでおり、今後海外のフィルムのIMAXの映写機は撤去される事が示唆されている。2015年には完全にデジタル化されるようで、それを示すかのように今年15/70mmのフィルムにプリントされた作品は「インターステラー」と「ホビット 決戦のゆくえ」の二つだけになっている。後の作品は全てデジタル上映である。完全デジタル化に移行すれば今後フィルムのIMAX作品を観ることは出来なくなる。「ダークナイト」「ダークナイト ライジング」などは海外で15/70mm上映のリバイバイルも行われているが来年からはそれらも無くなるだろう。他の作品も同様である。

「インターステラー」はこの長い映画史においてIMAX撮影された最後のフィルムIMAX上映作品である。

「スターウォーズEP7」のようにフィルムIMAXカメラによる撮影を取り入れた作品は今後もあるだろうが、15/70mmによる上映はこれが最後である。長々とIMAXについて書いてきたがこれを読んで海外のIMAXシアターへ観に行くかは読んでいる人次第である。ニューヨーク、シドニー、メルボルン、台北・・・etc。台北は天保山程度のスクリーンサイズで渡航費も3万以内で済むらしいので敷居はかなり低い。シドニーならば直行便で9時間程で着くので移動に時間のかかるニューヨークなどと比べるとスクリーンサイズも大きいのでオススメである。ただし航空費は結構高いのがキズ。

台北の観光案内ページリンク
ページ先にあるように台北のIMAXシアターのスクリーンサイズは21.16×28.80mの15/70mmフィルムIMAX上映形態となっている。



IMAXシアターの15/70mm上映を体験せずに後々後悔するか、一本の映画のために高い金を払ってわざわざ海外まで行くのか、金銭的な負担が一番の難点である以上おいそれと行くわけには行かないだろう。ただ、「ダークナイト ライジング」のためだけに16万円かけてシドニーまで行った私から言わせてもらうと、間違いなく「その価値はあった」。35.73×29.42mの世界最大のIMAXスクリーンで観た「ダークナイト ライジング」は誇張抜きで一生忘れられない体験になった。正直「ダークナイト」より作品のデキは落ちる。でもそれすらどうでも良くなる位圧倒的だった。

私の場合、シドニーへ行く決め手は「ライジング」のIMAXシーンの分量だった。「74分」というIMAXシーンの長さが判明した時直ぐにパスポート取得の手続きに入った。パスポートの取得は時間がかかるものだったので結構ギリギリのスケジュールになったのを覚えている。はっきり言って迷いは無かった。言語面で不安はあったが行くことそれ自体に迷いは生まれなかった。ただこれに関しては「ライジング」が続編であるという点も大きかったと言える。今回の「インターステラー」はIMAX撮影シーンが「66分」となっているがノーラン作とはいえオリジナルである。本作は情報統制がされているので本編の内容は分からないらしいので、内容が分からない作品のために海外へ行くというのも中々の博打である。それでもなお興味がある、行ってみたいという人には大いにオススメしたい。

なお、近場である台北miramar(大直)IMAXシアターは12月10日から「エクソダス」、17日から「ホビット」が上映されるのでおそらくインターステラーは9日までとなる。
台北miramar(大直)IMAXシアターは2月3日までのフィルム上映が確定している。2月4日から「ジュピター」が上映されるのでおそらくインターステラーの上映はそれまでだろう。
現在台北IMAXシアターでは『ジュピター』のみが上映され『インターステラー』の上映は完全に終了している。
台北miramar(大直)IMAXシアター リンク

同じくIMAX15/70mm上映の香港のUA IMAXシアターは12月7日までインターステラーが上映されている。
UA IMAX Theatre @ Airport リンク


シドニーIMAXシアターでは現在3月4日までの上映が決定している。
シドニーIMAXシアター リンク



List of 70mm Imax Theaters
List of IMAX venues

手前味噌で恐縮だが先日シドニーへ行った際の感想をまとめたので参考にしてもらえれば。



それと、もしシドニーIMAX旅行を考えている人がいれば以下にまとめてみたので参考にして頂ければ幸いである。
シドニーIMAX旅行のススメ

IMAX関連記事
[2017年~2019年] 最近のIMAX事情
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『スター・ウォーズ フォースの覚醒』はどのIMAXシアターで観るべきなのか。
 
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岩波 昌志

素晴しい情報をありがとうございます。
取り憑かれた様に台湾かシドニー行きを計画し始めてます。
筑波万博でのサントリー館の映像に衝撃を受けてから、
幕張での富士通館等を観て廻り、以来大型映像ファンです。
関係無いですが、先日日本最大級のスクリーンのミラノ座が閉館する前にと、ファンタスティック映画際も行きました。
このデジタルとフィルムの違いを1人でも多くの人に体感して頂きたい限りです。
そしてfacebookでの書き込みに内容を引用させて頂きました。
これからも拝見させて頂きます。
よろしくお願いします。
by 岩波 昌志 (2014-12-15 14:14) 

smith

>岩波 昌志さん

最寄のフィルムIMAXシアターである台湾、香港では既にインターステラーの上映が終了しています。なので距離的には今現在インターステラーが観られるIMAXシアターはシドニーが最も近い事になります。シドニーも終了間近ですが。

私が初めて大型映像を体験したのは実は最近の事で2010年の天保山での「ハッブル3D」でした。IMAXデジタルしか知らなかった私にとってフィルムIMAXの映像は正に衝撃的でしたね。その後全天周映像などにも興味を持ち、2012年に衝動的にシドニーへ行ってしまいました。

もともとこの記事は仰る様にIMAXにおけるフィルムとデジタルという違う規格が存在するという事を認知してもらおうという意図から書き始めたものでした。そしてあわよくば実際に行って体感してもらおうと。なので岩波さんのような存在は正に願ったり叶ったりです。とは言ったもののやはり金銭的な負担が大きいので安易に勧めるワケにはいかないのですが、一度「アレ」を体感してしまうと背中を押す手が止められません(笑)。また、フィルムという規格それ自体が無くなろうとしているのでデジタルには出せないあの質感を味わって欲しいとも思います。

因みに煽るようで申し訳無いのですがつい先週末にtwitter上でやり取りをした人がシドニーへインターステラーを観に行かれました。私自身もそうでしたが意外とすんなり行けてしまうのもので海外渡航といっても気を張る必要は全くありません。もしシドニーに行かれる時はtwitterやメールでも構いませんので気軽に質問して頂いて構いません。
by smith (2014-12-16 00:49) 

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