『ヒーリングっど プリキュア』EDダンスについて [アニメCG]
久しぶりのプリキュアEDダンス記事。2015年の『Go!プリンセスプリキュア』以来となる実に5年ぶりである。この5年間でプリキュアシリーズも大きく変わったが特に『Go!プリンセスプリキュア』を皮切りに始まった映画本編でのCG使用の本格化は注目すべき事案だろう。2015年の『映画 プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』では映画本編に付随する短編フルCG映画だったものが2017年の『映画 プリキュアドリームスターズ!』では本編の大部分がフルCG制作になっておりプリキュアシリーズにおけるCG制作の割合はここ数年でかなり大きくなっている。
これは『スマイルプリキュア!』や『ハピネスチャージプリキュア!』のEDダンスアニメーションを監督した宮本浩史氏が映画本編の監督としてデビューを飾った事にも関わってくるのだろう。宮本浩史氏は『スマイルプリキュア!』の頃から既に頭角を現しており氏の手がけるプリキュアEDアニメーションの映像は他作品と比べても突出したものだった。CGデザイナーとしてデザインから制作までこなせるのでいずれ大きな作品に関わるだろうとは思っていたが監督に抜擢された時は本当に驚いたものだ。そしてそこから生み出された作品が如何なるものであったかはもう説明するまでもないだろう。
現在の東映アニメーションデジタル映像部がどの程度の規模なのかは分からないが映画本編をフルCGで制作できる程度の所帯にまで大きくはなっているのだろう。では3DCG制作に関わっているスタッフが約200程度となっており、成程プリキュアシリーズ含めフルCGの映画やTVシリーズの制作等が同時に行われているのも納得の規模である。これはあくまで推論に過ぎないがプリキュアシリーズのCG制作の割合が大きくなるにつれその母体でもあったEDダンスアニメーションは近年役割を変えていったのではないかと思っている。具体的には『Go!プリンセスプリキュア』の頃からリソース配分がTVから映画へとシフトしていったという事である。
2014年の『ハピネスチャージプリキュア!』でプリキュアシリーズは初めてTVシリーズ本編への本格的なCG映像を導入し始めたのだが(上動画より)、その後は映画のオールスターシリーズでこれまで部分的に使われてきたCGキャラクターが数十人というプリキュアを同時に描く際に全てCGキャラへと置き換わるようになっている。前述した宮本浩史氏の監督作含め最早手書きでは追いつかない物量になっている点でもCG制作のリソースを映画に多く回す、または回さざるを得ないという状況になっているとも言えるのではないだろうか。
そしてそれに伴いデジタル映像部の中でもベテラン勢は映画本編へ、新人や経験の浅いスタッフはベテランスタッフの監督の下でEDダンスアニメーションを担当するといういわばEDのCGダンス映像が登竜門として役割を変えていった様に思える。あくまで体感としてだが。これまで歴代のEDダンスアニメーションを観てきた人は分かるだろうが2009年の『フレッシュプリキュア!』で始まったEDダンスアニメーションは作品を重ねる毎に常にそのクオリティは右肩上がりで進んでいった。
『フレッシュプリキュア!』の時点で既に見事なものだったがどの作品も毎回趣向を凝らした個性的な映像に仕上がっており「本編より可愛い」と言われる程の評判の出来だったのと業界でもそのクオリティの高さが知られていたのは有名な話である。特に宮本浩史氏が参加した『スマイルプリキュア!』以降は物量が凄まじくロケーションの移り変わりやダイナミックな光源処理、目を見張るようなエフェクト表現等どう考えても地上波で流れるクオリティの映像とは思えないものだった。
そして2016年の『魔法つかいプリキュア!』からはそういった映像の豪華さが一旦リセットされたのかそれまでにあった東映アニメーションデジタル映像部技術見本市的な派手さはかなり抑えられる様になった。そういった事から個人的には恐らくこの辺りから制作体制やリソース配分の移行があったのではないかと思っている。
『ヒーリングっど プリキュア(2020)』
前期(1話ー)
エンディングテーマ曲「ミラクルっと Link Ring!」
作詞:eNu 作曲:大橋莉子 編曲:KOH 歌:Machico
登場キャラクター キュアグレース(ピンク色)、キュアフォンテーヌ(青色)、キュアスパークル(黄色)
振り付け:CRE8BOY
今作『ヒーリングっど プリキュア』ではこれまでと制作体制が変わっている。まずEDダンスアニメーションの監督(便宜上)に酒井和男と大曽根悠介の二人。これはEDのクレジットにこの2名が筆頭表記になっていたため従来の方式通り頭にある人を監督として便宜上呼ぶ事にしている。因みに従来は「EDディレクター」表記だったが今作では「エンディングスタッフ」表記となっている。
従来はEDダンスの映像を監督する人間はデジタル映像部内部のスタッフである事が殆どだったのだが酒井和男は外部の人間となっている。プリキュアシリーズに関わりは無く近年では『ラブライブ!サンシャイン!! 』に大きく関わっていた。ご存知の通りラブライブシリーズはアイドルアニメであり劇中のライブステージにはプリキュア同様3CDGモデルのキャラクターが使用されている。本作の場合フルCGではなく作画の代替表現として部分的に使用されているものだが。今回酒井和男を監督として迎えたのはラブライブシリーズでの功績や手腕を評価しての事だろう。映像部の内部スタッフでもディレクションは可能だが新しい血を取り入れるという意味で敢えて採用したのだろうが結果として中々面白い事になっている。
『ラブライブ!サンシャイン!!』(TV/2016)
第11話挿入歌「想いよひとつになれ」
ライブパート絵コンテ 酒井和男
そしてもう一人の大曽根悠介。この人は経歴がかなり浅いが『映画 スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて(2019)』でCGディレクターとして参加しているので恐らく今回プリキュア組として助監督的な位置に置かれたのだと思う。つまり今作では頭二人がプリキュアシリーズとはあまり縁の無かったタイプの人に任された事になる。
エンディングテーマ曲「ミラクルっと Link Ring!」ではプリキュアシリーズ初参加となるMachicoが歌手として参加している。アニメのOP等やアイドルマスター関連作品に関わっており以前記事を書いた『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』では伊吹翼役を担当している。
『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』
「恋のLesson初級編」
歌:伊吹翼 / Machico
そしてダンスの振り付けにCRE8BOY。これまで前田健、MIKIKO、原ななえ、振付稼業air:manと様々な振付師が参加してきたが今回参加するCRE8BOYはAKB48グループや乃木坂46等の秋元康プロデュースグループを多く手がけている日本の振付ユニットとの事。作詞、編曲にプリキュアシリーズ参加者もいるがほぼ新体制のEDダンスアニメーションと言っても良いだろう。
今作のキャラクターデザインは山岡直子。プリキュアシリーズでは作画監督としてこれまで参加していたが今回が初のキャラクターデザインとなる。デザインの方向性として変身前では従来の路線よりもより女児向けに特化したというべきかより少女マンガ的なデザインへシフトしたのか対象年齢を下げたような角の取れた柔らかいデザインになっている。色も中間色がメインだ。変身後のプリキュアのデザインは従来の路線を継承したというか傾向としては川村敏江的とでも言えばいいのか既存デザインのデジャヴを覚える様な面白いものになっている。
EDダンスに使用されるCGモデルはそのシェーディングの方向性も毎回変わるがプリキュアシリーズでは基本的に手書きに寄せつつも手書きには無いCGとしての独自の質感を演出する方向性が見られる。そのため特に先の宮本浩史氏の監督作品の様にCGだからこその見た目に拘っている事が多く手書きの代替表現の様な見た目は少ない。そこにきて今回の『ヒーリングっど プリキュア』のCGモデルはかなり本編の手書き作画に近いものになっている。『スイートプリキュア(2011)』の時点でかなり手書き作画に近い表現が出来ていたのでやろうと思えば出来たのだろうが今作では従来よりもかなり意識的に本編の手書き作画に寄せられている。
本編手書き作画
EDダンスCGモデル
輪郭線の太さや質感、肌や髪の色合い下唇や頬、髪の毛のハイライトなどCGモデルにありがちなテカリが殆ど無く本編の手書き作画の抑えた色調も同じ様に表現されている。
衣装はほぼポリゴンベースで制作されているがキャラクターへかかる影はかなり薄くかつ最低限でCGモデルによる立体感自体がかなり抑えられる方向になっている。正面からみた場合CGモデルとしての豪華さや派手さは無いが手書き作画との親和性はかなり高い。これは今作では意識的に手書き作画へと寄せた表現にしているという事なのだろう。その点では歴代で一番手書き作画に近い表現となっている。
シリーズ初となるアイラインの表現。キャラ毎に目頭と目じりに色が足されている。作画では大変だがCGなので色の諧調も表現出来ている。またキャラ毎に瞳孔の色も異なっておりキュアグレースは青、キュアフォンテーヌは黄、キュアスパークルは紫となっている。今作では頬のチーク表現は無いが目蓋の上下幅で目の表情がしっかり演出出来ているので全編に亘って表情はかなり豊かに演出できている。フォンテーヌの釣り目やスパークルのタレ目はCGモデルだとどうしてもCG故の固さが出てしまうものだが今作では表情の柔らかさがしっかり出ている。
髪の毛の質感の表現は勿論、揺れの制御も流石というべきか本当に良い按配で揺れており、キュアグレースやフォンテーヌの様なロングヘアーは揺れすぎても揺れなさすぎても違和感が出てしまうのだがダンスに意識がいくような邪魔をしない絶妙な揺れ加減をしている。
そういえばキュアスパークルはかなりボリュームのあるパニエを履いているがここまでのは『Goプリ』以来だろうか。キュアグレースとフォンテーヌはほぼ同じデザインの衣装となっているがスパークルはスカートもそうだがソックスやシューズ、アクセサリ等かなりカジュアルなものになっていてこの辺りはキャラの個性が人目で分かるようなデザインになっている。
スパークルは黄色伝統のアクの強いキャラのようだがシリーズ初となるCGモデルでのアヒル口表現が。
エンディングテーマ曲である「ミラクルっと Link Ring!」は歴代ED曲の中でもかなりのアップテンポの曲でありアタックもかなり強い。そして曲がアップテンポなので振り付けもかなり運動量の多いものになっており移動は少ないが小刻みに飛ぶ動作が多く振り付けそのものが結構早い。CRE8BOYによる振り付けは歴代と比べると指の動作が多く歌詞と連動して表現しているものが多く見られる。
今作で印象的だったのが先ず映像表現としてかなり能動的な意識を感じた事である。単にプリキュアが踊るというだけでなく歌とダンスとカメラワークその他諸々の総合芸術としてのダンスアニメーションを制作する、そういった積極性を感じさせる様な意識を強く感じたのである。具体的に言うと歌の曲調と歌詞、振り付け、カメラワーク、背景美術、演出等それぞれが意味のあるものとして扱われているという事である。これは以前何度も書いていたが振り付けが歌詞を表現しているとそれ自体が強く印象付けられるという効果があるので歌詞を表した振り付けとはダンスにおいて強い武器になるのである。全部は紹介しきれないが今作では歌詞と連動した振り付けがかなりあるので読み解きながら観てみるといくつも発見があるだろう。
「過ごした時間は未来の宝物」の部分の様に指で秒針を現して背景の星の長時間露光と回転するカメラワークで時計を表現するなど歌詞と振り付けに留まらない表現が兎に角多い。
ここのカットはステッキをワイプ表現として使っており曲のリズムと合わせて小気味良く動いており見ていてクセになる。
その後の「いままでも(いままでも) これからも(これからも) 大切にしていこう」の部分では曲のリズムと振り付けに合わせて木々が成長しており、ここから察するに今作では映像を制作するプリプロダクションの段階で曲と振り付けとカメラワークが絵コンテで綿密に計算されている事が読み取れる。というのもプリキュアのEDダンスアニメーションはダンスの振り付けをモーションキャプチャーで実際に踊りながら収録しているため後から変更が効かないからである。ここまで各要素が上手く噛み合っているのは偶然の賜物ではないだろう。そしてそれらの要素の一体感は歴代のEDダンスの映像の中でも今作は抜きん出ている。ダンス以外の部分も本当に良く出来ているから非常に見応えがある。
曲の後半ではまだ本編には出てきていないタンバリン状のアイテムを持っているがEDダンスでステッキ以外のものを持っているのは珍しい。また被写体を斜めに映すカメラワークもEDダンスでは中々見ない表現である。ここは良く見てみるとタンバリンを上に掲げたときにカメラも合わせて僅かに上がっているがこういったカメラワークはおそらく『ラブライブ』に関わってきた酒井和男ならではなのだろう。従来ならこういった時はキャラの中心から動かさないのでアグレッシブなカメラワークは中々新鮮である。これ以外にもというか全体的にカメラはかなりグリグリ動くしカット数も結構多いので映像としての躍動感は凄い。
背景も曲のリズムに合わせて春→夏→秋→冬と目まぐるしく変化し前述した木々が生長するのも含め「地球を癒す」というテーマに即した演出になっている。
「一緒だからプリキュア」の部分で手を伸ばしてから頭上に回して胸元に戻す振り付けがあるがここはおそらくモーションを手付けで修正しているのだろう。モーキャプのデータをそのまま使うとダンスとして間延びする場合もあるので手で修正する事は良くあるのだがここは途中の数フレームを切ってメリハリのある動きにしているのが良く分かる。手を伸ばす動作と戻す瞬間を見てみると良く分かると思う。
そういえばスパークルは一人だけカメラ目線だったりウインクをしていたりと自由なキャラクターだがこういったキャラクター固有の表現があることによって個性が演出出来ているのは大事な事だったりする。プリキュアのEDダンスの本懐は勿論ダンスアニメーションである事だが終始踊る人形であっては面白みが無い。キャラ同士の掛け合いや上記の様な個性が滲み出る事は映像に奥行きを生むのである。
今回記事を書くにあたって『フレッシュプリキュア!』から始まる歴代のEDダンスアニメーションを順番に観ていったのだが、11作品、前期後期合わせて22本のダンス映像を経て改めて『ヒーリングっど プリキュア』のEDダンスを見た時、素で「これは凄い」と感激してしまった。過去にも手書き表現と遜色無いEDダンスや単純に映像作品として凄いものもあったがそれらと比較しても今作は本当に良く出来ている。というかプリキュアEDダンスアニメーションは業界の中でもちょっと次元が違うなと改めて思い知らされた次第である。
フルCGによるTVアニメシリーズが当たり前の様に制作されている昨今ではアイドルのCGダンスアニメなど最早表現の一つに過ぎないと思っていたがやはりプリキュアのレベルは高い。そして何より可愛い。そう、可愛いのである。これも何度も言っているが可愛さを感じられるCGモデルのキャラクターというのはその時点で大正義だからである。可愛ければ良いというワケでは無い。しかし可愛さは何にも優る武器なのである。その点においても『ヒーリングっど プリキュア』のEDダンスは本当に良く出来ている。そして可愛い。
アニメCG関連過去記事 (※各記事の動画リンク切れ多数有り)
プリキュア
・ フレッシュプリキュア! のEDダンスについて
・ ハートキャッチプリキュア!のEDダンスについて
・ スイートプリキュア♪のEDダンスについて
・ スマイルプリキュア! のEDダンスについて
・ドキドキ!プリキュアのEDダンスについて
・ ハピネスチャージプリキュア!のEDダンスについて
・補足
・Go!プリンセスプリキュアのEDダンスについて
・『Go!プリンセスプリキュア』3DCGモデルによるセルルック表現
アイカツ!
・「アイカツ!」第71話 霧矢あおい「prism spiral」にみる振り付け。
・「アイカツ!」アニメ3期における3DCGライブ演出の展望。
・「アイカツ!」第103話 氷上スミレ「タルト・タタン」での3DCGライブ演出。
・「アイカツ!」アニメ3期の3DCGモデルに見られる変化
・『アイカツ!』第118話 藤原みやび「薄紅デイトリッパー」の3DCGライブ演出
・『アイカツ!』第123話 大空あかり「Blooming♡Blooming」の3DCGライブ演出
・『アイカツ!』第124話 北大路さくら「Blooming♡Blooming」のセルルック表現
・『アイカツ!』第160話の3DCGライブステージにおける変化について
・『アイカツスターズ!』の3DCGダンスアニメーションについて。
・『アイカツフレンズ!』 第7話 明日香ミライ「アイデンティティ」3DCGライブ演出
プリパラ
・「プリパラ」における3DCGのライブステージ演出。part.1
・「プリパラ」における3DCGのライブステージ演出。part.2
・「プリパラ」第22話「HAPPYぱLUCKY」におけるライブステージ演出。
アイドルタイムプリパラ
・『アイドルタイムプリパラ』にみる3DCGモデルの変化・変遷
ラブライブ!
・「ラブライブ!」ライブシーンの3DCGの演出について
・「ラブライブ!」2期 第6話挿入歌「Dancing stars on me!」の演出。
アイドルマスター
・『アイドルマスター プラチナスターズ』におけるモデリングの変化・変遷について
・『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』の3DCGモデルについて
・アイドルアニメのCGライブパートランキング 2014
・『file(N)-project PQ』ダンスアニメーションPVの演出について
これは『スマイルプリキュア!』や『ハピネスチャージプリキュア!』のEDダンスアニメーションを監督した宮本浩史氏が映画本編の監督としてデビューを飾った事にも関わってくるのだろう。宮本浩史氏は『スマイルプリキュア!』の頃から既に頭角を現しており氏の手がけるプリキュアEDアニメーションの映像は他作品と比べても突出したものだった。CGデザイナーとしてデザインから制作までこなせるのでいずれ大きな作品に関わるだろうとは思っていたが監督に抜擢された時は本当に驚いたものだ。そしてそこから生み出された作品が如何なるものであったかはもう説明するまでもないだろう。
現在の東映アニメーションデジタル映像部
2014年の『ハピネスチャージプリキュア!』でプリキュアシリーズは初めてTVシリーズ本編への本格的なCG映像を導入し始めたのだが(上動画より)、その後は映画のオールスターシリーズでこれまで部分的に使われてきたCGキャラクターが数十人というプリキュアを同時に描く際に全てCGキャラへと置き換わるようになっている。前述した宮本浩史氏の監督作含め最早手書きでは追いつかない物量になっている点でもCG制作のリソースを映画に多く回す、または回さざるを得ないという状況になっているとも言えるのではないだろうか。
そしてそれに伴いデジタル映像部の中でもベテラン勢は映画本編へ、新人や経験の浅いスタッフはベテランスタッフの監督の下でEDダンスアニメーションを担当するといういわばEDのCGダンス映像が登竜門として役割を変えていった様に思える。あくまで体感としてだが。これまで歴代のEDダンスアニメーションを観てきた人は分かるだろうが2009年の『フレッシュプリキュア!』で始まったEDダンスアニメーションは作品を重ねる毎に常にそのクオリティは右肩上がりで進んでいった。
『フレッシュプリキュア!』の時点で既に見事なものだったがどの作品も毎回趣向を凝らした個性的な映像に仕上がっており「本編より可愛い」と言われる程の評判の出来だったのと業界でもそのクオリティの高さが知られていたのは有名な話である。特に宮本浩史氏が参加した『スマイルプリキュア!』以降は物量が凄まじくロケーションの移り変わりやダイナミックな光源処理、目を見張るようなエフェクト表現等どう考えても地上波で流れるクオリティの映像とは思えないものだった。
そして2016年の『魔法つかいプリキュア!』からはそういった映像の豪華さが一旦リセットされたのかそれまでにあった東映アニメーションデジタル映像部技術見本市的な派手さはかなり抑えられる様になった。そういった事から個人的には恐らくこの辺りから制作体制やリソース配分の移行があったのではないかと思っている。
『ヒーリングっど プリキュア(2020)』
前期(1話ー)
エンディングテーマ曲「ミラクルっと Link Ring!」
作詞:eNu 作曲:大橋莉子 編曲:KOH 歌:Machico
登場キャラクター キュアグレース(ピンク色)、キュアフォンテーヌ(青色)、キュアスパークル(黄色)
振り付け:CRE8BOY
今作『ヒーリングっど プリキュア』ではこれまでと制作体制が変わっている。まずEDダンスアニメーションの監督(便宜上)に酒井和男と大曽根悠介の二人。これはEDのクレジットにこの2名が筆頭表記になっていたため従来の方式通り頭にある人を監督として便宜上呼ぶ事にしている。因みに従来は「EDディレクター」表記だったが今作では「エンディングスタッフ」表記となっている。
従来はEDダンスの映像を監督する人間はデジタル映像部内部のスタッフである事が殆どだったのだが酒井和男は外部の人間となっている。プリキュアシリーズに関わりは無く近年では『ラブライブ!サンシャイン!! 』に大きく関わっていた。ご存知の通りラブライブシリーズはアイドルアニメであり劇中のライブステージにはプリキュア同様3CDGモデルのキャラクターが使用されている。本作の場合フルCGではなく作画の代替表現として部分的に使用されているものだが。今回酒井和男を監督として迎えたのはラブライブシリーズでの功績や手腕を評価しての事だろう。映像部の内部スタッフでもディレクションは可能だが新しい血を取り入れるという意味で敢えて採用したのだろうが結果として中々面白い事になっている。
『ラブライブ!サンシャイン!!』(TV/2016)
第11話挿入歌「想いよひとつになれ」
ライブパート絵コンテ 酒井和男
そしてもう一人の大曽根悠介。この人は経歴がかなり浅いが『映画 スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて(2019)』でCGディレクターとして参加しているので恐らく今回プリキュア組として助監督的な位置に置かれたのだと思う。つまり今作では頭二人がプリキュアシリーズとはあまり縁の無かったタイプの人に任された事になる。
エンディングテーマ曲「ミラクルっと Link Ring!」ではプリキュアシリーズ初参加となるMachicoが歌手として参加している。アニメのOP等やアイドルマスター関連作品に関わっており以前記事を書いた『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』では伊吹翼役を担当している。
『アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ』
「恋のLesson初級編」
歌:伊吹翼 / Machico
そしてダンスの振り付けにCRE8BOY。これまで前田健、MIKIKO、原ななえ、振付稼業air:manと様々な振付師が参加してきたが今回参加するCRE8BOYはAKB48グループや乃木坂46等の秋元康プロデュースグループを多く手がけている日本の振付ユニットとの事。作詞、編曲にプリキュアシリーズ参加者もいるがほぼ新体制のEDダンスアニメーションと言っても良いだろう。
今作のキャラクターデザインは山岡直子。プリキュアシリーズでは作画監督としてこれまで参加していたが今回が初のキャラクターデザインとなる。デザインの方向性として変身前では従来の路線よりもより女児向けに特化したというべきかより少女マンガ的なデザインへシフトしたのか対象年齢を下げたような角の取れた柔らかいデザインになっている。色も中間色がメインだ。変身後のプリキュアのデザインは従来の路線を継承したというか傾向としては川村敏江的とでも言えばいいのか既存デザインのデジャヴを覚える様な面白いものになっている。
EDダンスに使用されるCGモデルはそのシェーディングの方向性も毎回変わるがプリキュアシリーズでは基本的に手書きに寄せつつも手書きには無いCGとしての独自の質感を演出する方向性が見られる。そのため特に先の宮本浩史氏の監督作品の様にCGだからこその見た目に拘っている事が多く手書きの代替表現の様な見た目は少ない。そこにきて今回の『ヒーリングっど プリキュア』のCGモデルはかなり本編の手書き作画に近いものになっている。『スイートプリキュア(2011)』の時点でかなり手書き作画に近い表現が出来ていたのでやろうと思えば出来たのだろうが今作では従来よりもかなり意識的に本編の手書き作画に寄せられている。
本編手書き作画
EDダンスCGモデル
輪郭線の太さや質感、肌や髪の色合い下唇や頬、髪の毛のハイライトなどCGモデルにありがちなテカリが殆ど無く本編の手書き作画の抑えた色調も同じ様に表現されている。
衣装はほぼポリゴンベースで制作されているがキャラクターへかかる影はかなり薄くかつ最低限でCGモデルによる立体感自体がかなり抑えられる方向になっている。正面からみた場合CGモデルとしての豪華さや派手さは無いが手書き作画との親和性はかなり高い。これは今作では意識的に手書き作画へと寄せた表現にしているという事なのだろう。その点では歴代で一番手書き作画に近い表現となっている。
シリーズ初となるアイラインの表現。キャラ毎に目頭と目じりに色が足されている。作画では大変だがCGなので色の諧調も表現出来ている。またキャラ毎に瞳孔の色も異なっておりキュアグレースは青、キュアフォンテーヌは黄、キュアスパークルは紫となっている。今作では頬のチーク表現は無いが目蓋の上下幅で目の表情がしっかり演出出来ているので全編に亘って表情はかなり豊かに演出できている。フォンテーヌの釣り目やスパークルのタレ目はCGモデルだとどうしてもCG故の固さが出てしまうものだが今作では表情の柔らかさがしっかり出ている。
髪の毛の質感の表現は勿論、揺れの制御も流石というべきか本当に良い按配で揺れており、キュアグレースやフォンテーヌの様なロングヘアーは揺れすぎても揺れなさすぎても違和感が出てしまうのだがダンスに意識がいくような邪魔をしない絶妙な揺れ加減をしている。
そういえばキュアスパークルはかなりボリュームのあるパニエを履いているがここまでのは『Goプリ』以来だろうか。キュアグレースとフォンテーヌはほぼ同じデザインの衣装となっているがスパークルはスカートもそうだがソックスやシューズ、アクセサリ等かなりカジュアルなものになっていてこの辺りはキャラの個性が人目で分かるようなデザインになっている。
スパークルは黄色伝統のアクの強いキャラのようだがシリーズ初となるCGモデルでのアヒル口表現が。
エンディングテーマ曲である「ミラクルっと Link Ring!」は歴代ED曲の中でもかなりのアップテンポの曲でありアタックもかなり強い。そして曲がアップテンポなので振り付けもかなり運動量の多いものになっており移動は少ないが小刻みに飛ぶ動作が多く振り付けそのものが結構早い。CRE8BOYによる振り付けは歴代と比べると指の動作が多く歌詞と連動して表現しているものが多く見られる。
今作で印象的だったのが先ず映像表現としてかなり能動的な意識を感じた事である。単にプリキュアが踊るというだけでなく歌とダンスとカメラワークその他諸々の総合芸術としてのダンスアニメーションを制作する、そういった積極性を感じさせる様な意識を強く感じたのである。具体的に言うと歌の曲調と歌詞、振り付け、カメラワーク、背景美術、演出等それぞれが意味のあるものとして扱われているという事である。これは以前何度も書いていたが振り付けが歌詞を表現しているとそれ自体が強く印象付けられるという効果があるので歌詞を表した振り付けとはダンスにおいて強い武器になるのである。全部は紹介しきれないが今作では歌詞と連動した振り付けがかなりあるので読み解きながら観てみるといくつも発見があるだろう。
「過ごした時間は未来の宝物」の部分の様に指で秒針を現して背景の星の長時間露光と回転するカメラワークで時計を表現するなど歌詞と振り付けに留まらない表現が兎に角多い。
ここのカットはステッキをワイプ表現として使っており曲のリズムと合わせて小気味良く動いており見ていてクセになる。
その後の「いままでも(いままでも) これからも(これからも) 大切にしていこう」の部分では曲のリズムと振り付けに合わせて木々が成長しており、ここから察するに今作では映像を制作するプリプロダクションの段階で曲と振り付けとカメラワークが絵コンテで綿密に計算されている事が読み取れる。というのもプリキュアのEDダンスアニメーションはダンスの振り付けをモーションキャプチャーで実際に踊りながら収録しているため後から変更が効かないからである。ここまで各要素が上手く噛み合っているのは偶然の賜物ではないだろう。そしてそれらの要素の一体感は歴代のEDダンスの映像の中でも今作は抜きん出ている。ダンス以外の部分も本当に良く出来ているから非常に見応えがある。
曲の後半ではまだ本編には出てきていないタンバリン状のアイテムを持っているがEDダンスでステッキ以外のものを持っているのは珍しい。また被写体を斜めに映すカメラワークもEDダンスでは中々見ない表現である。ここは良く見てみるとタンバリンを上に掲げたときにカメラも合わせて僅かに上がっているがこういったカメラワークはおそらく『ラブライブ』に関わってきた酒井和男ならではなのだろう。従来ならこういった時はキャラの中心から動かさないのでアグレッシブなカメラワークは中々新鮮である。これ以外にもというか全体的にカメラはかなりグリグリ動くしカット数も結構多いので映像としての躍動感は凄い。
背景も曲のリズムに合わせて春→夏→秋→冬と目まぐるしく変化し前述した木々が生長するのも含め「地球を癒す」というテーマに即した演出になっている。
「一緒だからプリキュア」の部分で手を伸ばしてから頭上に回して胸元に戻す振り付けがあるがここはおそらくモーションを手付けで修正しているのだろう。モーキャプのデータをそのまま使うとダンスとして間延びする場合もあるので手で修正する事は良くあるのだがここは途中の数フレームを切ってメリハリのある動きにしているのが良く分かる。手を伸ばす動作と戻す瞬間を見てみると良く分かると思う。
そういえばスパークルは一人だけカメラ目線だったりウインクをしていたりと自由なキャラクターだがこういったキャラクター固有の表現があることによって個性が演出出来ているのは大事な事だったりする。プリキュアのEDダンスの本懐は勿論ダンスアニメーションである事だが終始踊る人形であっては面白みが無い。キャラ同士の掛け合いや上記の様な個性が滲み出る事は映像に奥行きを生むのである。
今回記事を書くにあたって『フレッシュプリキュア!』から始まる歴代のEDダンスアニメーションを順番に観ていったのだが、11作品、前期後期合わせて22本のダンス映像を経て改めて『ヒーリングっど プリキュア』のEDダンスを見た時、素で「これは凄い」と感激してしまった。過去にも手書き表現と遜色無いEDダンスや単純に映像作品として凄いものもあったがそれらと比較しても今作は本当に良く出来ている。というかプリキュアEDダンスアニメーションは業界の中でもちょっと次元が違うなと改めて思い知らされた次第である。
フルCGによるTVアニメシリーズが当たり前の様に制作されている昨今ではアイドルのCGダンスアニメなど最早表現の一つに過ぎないと思っていたがやはりプリキュアのレベルは高い。そして何より可愛い。そう、可愛いのである。これも何度も言っているが可愛さを感じられるCGモデルのキャラクターというのはその時点で大正義だからである。可愛ければ良いというワケでは無い。しかし可愛さは何にも優る武器なのである。その点においても『ヒーリングっど プリキュア』のEDダンスは本当に良く出来ている。そして可愛い。
アニメCG関連過去記事 (※各記事の動画リンク切れ多数有り)
プリキュア
・ フレッシュプリキュア! のEDダンスについて
・ ハートキャッチプリキュア!のEDダンスについて
・ スイートプリキュア♪のEDダンスについて
・ スマイルプリキュア! のEDダンスについて
・ドキドキ!プリキュアのEDダンスについて
・ ハピネスチャージプリキュア!のEDダンスについて
・補足
・Go!プリンセスプリキュアのEDダンスについて
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アイカツ!
・「アイカツ!」第71話 霧矢あおい「prism spiral」にみる振り付け。
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・「アイカツ!」第103話 氷上スミレ「タルト・タタン」での3DCGライブ演出。
・「アイカツ!」アニメ3期の3DCGモデルに見られる変化
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・『アイカツスターズ!』の3DCGダンスアニメーションについて。
・『アイカツフレンズ!』 第7話 明日香ミライ「アイデンティティ」3DCGライブ演出
プリパラ
・「プリパラ」における3DCGのライブステージ演出。part.1
・「プリパラ」における3DCGのライブステージ演出。part.2
・「プリパラ」第22話「HAPPYぱLUCKY」におけるライブステージ演出。
アイドルタイムプリパラ
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ラブライブ!
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・「ラブライブ!」2期 第6話挿入歌「Dancing stars on me!」の演出。
アイドルマスター
・『アイドルマスター プラチナスターズ』におけるモデリングの変化・変遷について
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