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『file(N)-project PQ』ダンスアニメーションPVの演出について [アニメCG]

働くアイドル「P.IDL」の「チームI●」と東映アニメーションのコラボにより制作されているオリジナルアニメーション映画『file(N): project PQ』。その劇中のキャラクターの3DCGモデルによるダンスアニメーションPVが公開されている。


監督は『プリキュアオールスターズDX 3Dシアター』の宮原直樹。キャラクター原案は黒星紅白。キャラクターデザイン・総作画監督は浦上貴之。「ダンスで世界を救う」をコンセプトに異世界に迷い込んだ女子中学生5人とそこに住むポッピン族達と共にダンスを駆使して世界の危機に立ち向かう、という東映では久しぶりのオリジナル劇場アニメ作品。

公開されたPVでは主人公である中学生5人と彼女らにダンスを教える5人のポッピン族が共にダンスを踊るものになっている。東映作品なのでこの3DCGモデルによるダンスPVもプリキュアで御馴染みの同部署である東映アニメーションデジタル映像部による制作で間違いないだろう。オリジナルかつ劇場アニメ作品というのはリスクは高いが最近では「楽園追放」の様な成功例もあるので作品の質は勿論マーケティングの方法次第では十分に成功する可能性はある。

本作は恐らく年末辺りの公開になるのだろうが、4月の制作発表段階でフルCGのダンスPVがいきなり公開されるあたりかなり力を入れているのだろう。ヤフーとのコラボにより「はじめてのダンスレッスン」と称して上記のPVを紹介している事から察するに小学生前後もマーケティングの対象になっているのが伺える。ポッピン族のキャラクターデザインから見るにその理解は概ね正しいのだろう。

実はこのダンスPV、知ったのはつい先日で公開されてから実に一ヶ月後の事だった。twitterで確かCGについて検索していた時に見かけたものでそれまでは露ほどにも知らなかったので本当に偶然だった。なので多分現時点で知らない人は多いと思う。

さてこの3DCGモデルによるダンスPVだが、良く出来ている。
特筆してクオリティが高いという程ではないが粗が見えにくいそつのなさが感じられる。具体的にはキャラクターの3DCGモデルに良くある特有の作り物っぽさが殆ど見受けられないという事なのだが、これには幾つか理由が考えられる。

先ず、そもそもモデリングの出来の良さ。分かる人は一見して分かるだろうがこのPVの3DCGモデル、実はそこまで作り込まれてはいない。これは黒星紅白デザインによるところが大きいが全体的に線が少なく顔もシンプルなデザインになっており、特に衣装に関してはフリルやスカート以外の部分は殆ど平面的なデザインになっている。細部を見てみると頂点が少ないためか角ばっている部分なども見受けられる。

このPVを見る限りではこの3DCGモデルはセルルックを意識して制作されているのだろうが、この「そこそこ作りこまれたシンプルな3DCGモデル」が故にセルルックとして非常に良く出来ている。勿論ライティング、エフェクト、フィルター等モデリング以外での処理によるところも大きいのだろうが、他作品で良く見受けられる様な正面以外のアングルにおいてセルルックが破綻する現象がこのPVでは殆ど見られない。

俯瞰、サイド、あおり等、手書きの表現を3DCGモデルでも再現しようとするセルルック表現では正面以外のアングルからの見え方は死活問題である。本PVでは特にフェイシャル部分において(というかセルルック表現の課題の殆どはフェイシャル部分)輪郭線の処理、鼻筋や影のかかり方による顔の凹凸表現がかなり良く出来ている。フェイシャルアニメーション自体はそこまで多くは無いのでこの場合ともすれば作り物感が露呈してしまう恐れがあるのだが、前述した様に黒星紅白によるシンプルなデザインによりデフォルトの状態での正面からの顔のデザインがセルルック的に良く出来ているので、多少表情が少なくとも違和感が出にくいようになっている。本PVで言えば紫色と青色のキャラクターである。
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セルルックな3DCGモデルにとっては鬼門であるあおりのアングルだがこの角度でも頬の膨らみが表現できており、また顎と首の境界線のラインがアングルによって自動的に消えるようにもなっているのでこの辺りは良く出来ている。

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このカットなどは頬の膨らみ具合、鼻筋のバランス、口の位置、大きさ、歯の見え具合など全体のバランスが手書きアニメ的な崩し方になっており、モデルの修正なしでこういった表情が出来るのかと感心してしまった。

ただ、注視してみると気になる点も幾つかある。
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冒頭のこの部分。Youtube画質なので口の輪郭線の色が薄いせいなのかは分からないが口の部分だけ解像度が低いように見えてしまい、ここだけテクスチャで貼り付けたような違和感が出てしまっている。目の輪郭線の強さが全く違っているのも原因だろう。

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この中央を走るラインだがここも輪郭線が薄いので実際には立体としてモデリングされているのだが正面から見ると全く立体的に見えない。これは意図的にそう見えるように処理しているのかもしれないが、立体感を殺す事とセルルックとして見える事は別である。ここはセルルックとしては完全に死んでいる。

先にも書いたようにモデリング自体はそこまで作りこまれれた様には見えないのだが、もしかしたらこれは製作体制によるものかもしれない。制作発表と同時にフルCGによる1分30秒のダンスPVを作るという事は曲、コンテ、演出、5人分のモーションキャプチャ、プリビズ、などその工程は多岐に渡り、おまけに本PVの曲『ティーンエイジブルース』はPV公開一ヶ月前の発売である。これはあくまで推測だが、本PVは製作日数が少なかったので3DCGモデルについてはレンダリングの時間を極力減らすためにある程度「削った」部分があるのではないかと。何せ場面によってはポッピン族を含め10体のキャラクターが画面内で踊っているのである。
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このポッピン族のキャラクターも良くできており、モーションも含めセルルックという点で言えば正直こちらの方が出来は良い。このカットは床の鏡面仕様も含めてレンダリングに時間がかかったとは思うが、こういった点からも部分的に見られる簡素なモデリングは意図的なものではないかと考えられる。まあ、だから何だという話だが。

本PVのセルルック感についてはモデリングよりも寧ろ動かし方によるところが大きいと思う。ダンスのモーションもそうだが、長く伸びたマフラー(赤)、リボン(紫)、髪の毛(黄)、帯(緑)、衣装(青)などの揺れモノが全く気にならず不自然さが無い。これは24コマで動かしているからという事もあるが、特に赤いマフラーや紫のリボンなど目を惹きやすいものでも言われなければ気付かないくらいに揺れモノが画面に馴染んでいる。

このカットのマフラーは手付けで動かしているのだろうが、ここはカメラワークも含めて非常に良く出来ている。

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そして特筆すべきはサビだろう。
「HAPPYぱLUCKY」の時もそうだったのだがフルショットで5人を正面から捉えたこのカットに感じる、言葉では表現出来ない様な高揚感、幸福感。長々とこんな文章を書いていて申し訳ないのだが、これについては最高という言葉以外で表現しようが無い。それ位素晴らしい。このカットも含め各所にアイコンタクトやハイタッチなどキャラクター同士の掛け合いが見られる事でキャラクターが生き生きとしており、この5人が共有している空間の楽しげな雰囲気が伝わってくる。

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そして、このラストのカットである。よく見てみると各キャラクターが肩で息をしているのが見えるだろうが、前述した掛け合いも含めこういった「演者が演目を演じている」というメタ的な演出を入れる事によってキャラクターが単なる3DCGモデルに終始していない辺り、作り手は良く分かっている。

本作が果たして全て手書きによる作画で制作されるのか、それともダンスパートで部分的に3DCGが使用されるのかは現時点では分からない。ただ、3DCGモデル含めこんなPVを作っておいてそれをプロモーションにしか使わないという事は先ず考えられないので、このダンス映像ED等でおそらく本編でも使われるのだろう。公開が楽しみである。


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