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「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 2/5 [アニメCG]

前回「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 1/5

「ハートキャッチプリキュア♪」(10年)
前期(第1話 - 第24話) エンディングテーマ曲「ハートキャッチ☆パラダイス」
登場キャラクター 花咲つぼみ/キュアブロッサム(ピンク色)、来海えりか/キュアマリン(青色)
振り付け 前田 健
頭身が高くリアル寄りだった香川久のキャラデザによる「フレッシュ」から、「おじゃ魔女どれみ」で有名な馬越嘉彦による頭身が低く目が大きいデザインへと変わった「ハートキャッチプリキュア♪」(以下「ハートキャッチ」)。プリキュアシリーズ中最もデフォルメの程度が大きく、顔の面積に対する目の大きさの比率も一番となっている。それ故他の3DCGダンスEDと比較してモデリングに対する違和感が大きく、デフォルメされたキャラクターを3DCGで表現する事の難しさという問題点が浮き彫りになった作品でもある。

EDの前半、プリキュアへの変身前である花咲つぼみと来海えりかの目は、コントラストが高い変身後と比べかなり暗い色に設定してある事が分かる。そのため死んだ魚の様な意思の見えない、人間性の感じられないような印象を与えてしまっている。これは「目」だけに起因するものでは無く、他にもデフォルメが激しいキャラデザ故の身体の大きさに対してアンバランスな大きさの顔、前述した目の大きさ、首の細さ、鎖骨周りのフォトリアル寄りの影によって引き起こされるセル表現とフォトリアルな表現が混在する気持ち悪さなど、幾つかの要素によって首から上のモデリングに対して感じる違和感、引いては「フレッシュ」前期にも書いた「アニメのキャラの被り物に対する違和感」を感じさせているのではないかと考えられる。

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ただ、やはり違和感に関して「目」が閉める割合は大きく、「瞳孔」「角膜」「虹彩」などの人間で言えば黒目部分に該当する箇所が大きい反面、人間が相手の意思、表情等を読み取る上で重要な「結膜」要は白目部分がかなり少ないため「目」全体が張り付いているように見えてしまっている。そのため口は笑っているのに目が所謂漫画アニメなどで意思の読めないキャラの表現として多用される「白目部分を黒く塗りつぶした目」に見えるというちぐはぐな状態に陥っているので、正直AメロBメロでの顔のモデリングはかなり不気味である。コレだけは何回見ても慣れない、というより不気味さが取れない。

Bメロの時に良く分かるのだが「♪イメチェンだって大成功!(Yes!)♪」で来海えりかがモータルコンバットのトッシーおじさんことダン・フォーンの如く画面外からアッパーを繰り出すカット(違う)では目蓋を閉じており、この状態で違和感が軽減しているのを感じるに、やはり原因の多くは眼球の表現にあるのだろう。眼球部分にハイライトがある事で違和感が幾分かは和らいでいる事からもそう考えられる。事実、サビへの転換で花咲つぼみがキュアブロッサムへと変身する際に黒目部分のコントラストが上がり変身前の暗い赤色から明るいマゼンタへと変化するのだが、変身後は眼球部分への違和感が殆ど感じられなくなっているからである。まあ、デフォルされたキャラにおいて眼球の大きさに比例して違和感も大きくなるという問題は構造的に不可避であるため、この場合ある程度は仕方の無いものではあるのだが。

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と、眼球部分についての言及ばかりしているがモデリング全体として見てみると「フレッシュ」と比較してみても顔の表情含めよりセル画に近い質感が出ている事が分かるだろう。具体的にはより「ベタ塗り」に近くなった事である。頭身が高かった「フレッシュ」に比べデフォルメの程度が大きい「ハートキャッチ」ではキャラの情報量が少ない分、3DCGに起こしても立体感が出にくいという点もある。顔の凹凸による陰影が「フレッシュ」から大分軽減したおかげでカメラがかなり寄っても違和感が前面に出てくるような事も無くなっている。ただ、完全に無くなったワケではなく、グラデーションのある陰影はある程度残っているのでそれによって眼球含め妙に生っぽい質感が出てしまっているのは確かである。まあ、注視して見ないと分からないレベルなのだが。でもそういった「注視するレベル」の多くの部分を改善していく事は、特にプリキュアEDダンスにおいては重要だったりする。

あと、「鼻」の処理が上手くなっている。漫画、アニメ、それぞれ手書き、CGを問わず鼻のデフォルメ表現というのは結構気を使うもので、鼻に影をつけるかどうかで顔の印象は大きく変わってしまうのもなのだが「ハートキャッチ」では影も極力つけず輪郭線を多少書く程度に留まっている。馬越デザインによるところもあるのだろうが鼻の輪郭線が無くとも正直違和感は無い。それと眉毛の可動域が増えており「フレッシュ」以上に目蓋の下げ幅による表情の変化が可能となっているのでより笑顔が自然になっており、サビでの「♪笑顔が良いね♪」では文字通り二人とも本当に良い笑顔をしている。ぶっちゃけ可愛い。

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さて、モデリング以外にも言及してみると、先ず最初に気付くのがサビまで二人とも変身していないという事。実は「ハートキャッチ」前期ED「ハートキャッチ☆パラダイス」は3DCG導入以降唯一変身前の姿でダンスをしているEDなのであり、しかも学校の制服、私服、変身後と3種類もの服装に変わっていくのである。そしてこれがEDダンスに深みを与えてもいる。それはもう言わずもがな「等身大としてのプリキュア」に他ならない。悪と戦うプリキュア戦士という以前に家族や友人がいて学校に通いオシャレにも興味がある普通の中学生であるという事。学校という身近な舞台が出でくるのも「ハートキャッチ☆パラダイス」だけである。EDの背景を見る限り飾り付けをされた教室や廊下、貼ってあるポスターの内容から察するにおそらく文化祭前日あるいは当日なのだろう。個人的には是非文化祭前日であって欲しいのだが。何故ならそのほうがより等身大らしさが出ているからである。というかそうとしか考えられない。因みに飾り付けの風船はそれぞれ微妙に動いている。

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冒頭の黒板に描かれた妖精含めたキュアブロッサムとキュアマリンの落書きは明らかに二人が書きそうな絵柄であり、プリキュアの絵を描いているということからも多くの生徒が下校した放課後である可能性が高い。文化祭終了後とも考えられるが、テンションの上がった二人が文化祭前日の特有のあの高揚感、多幸感から落書きをしたと考えたほうが自然である。ダンスに関しては実際に踊っているとするのは不自然なので、あの教室や廊下での踊りは気分が高まって落書きをしている二人の心象風景とも考えられる。いや、実際に踊っていたらそれはそれで最高なのだが。そしてそれらと対比するように巨大なライブステージへと移動する変身後のサビはプリキュアになった二人の願望のようなモノとも考えられるのが微笑ましいところである。加えて、サビへの移行の際「プリキュアへの変身」「巨大なライブステージへ移動」「大量の観客」「ビートが倍になる曲調」という複数の要素が観ている側にも高揚感を与えるようにもなっているのは見事である。
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また、振り付けも良く出来ており、「フレッシュ」後期が複雑になりすぎた反動というのもあるのだろう、中学生がノリで踊れそうな程度まで簡単になっており、等身大の中学生らしい可愛らしさや溌剌さが全面に出ている良い振り付けにもなっている。特にサビに関しては「フレッシュ」以降最も単純な動作となっており、一見手抜きのようにも思えるが、「手で弧を描く」「左右に振り回す」「両手の拳を握ってガッツポーズの様にリズムをとる」というこの3つの動作は動きが大きい分見ていて気持ちがいいし、何より踊っている本人達が本当に楽しそうなので全く問題は無い。寧ろこれでいい。因みに冒頭と最後の「♪ハートキャッチプリキュア♪」で振り付けが両方とも同じになっているのもポイントだろう。

最後は営業スマイルで視聴者のハートもキャッチ!
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後期(第25話 - 第49話) エンディングテーマ曲「Tomorrow Song ~あしたのうた~」
登場キャラクター キュアブロッサム(ピンク色)、キュアマリン(青色)、キュアサンシャイン(金色)、キュアムーンライト(銀色)
振り付け 前田 健


「You make me happy!」の時もそうだったがプリキュアシリーズの曲の振り幅の大きさには驚かされる。キュアサンシャイン、キュアムーンライトが追加された後期ED「Tomorrow Song ~あしたのうた~」は何とゴスペルである。流石に驚きを禁じえなかった。「You make me happy!」のjazzyな感じはまだ分かる。JAZZに付随する所謂「オトナ感」「洒落乙感」は背伸びをしたがる子供にとっては憧れを抱く対象になりうるからだ。しかし「プリキュア」と「ゴスペル」となると正直イメージが湧かない。本編を観たことが無いので当然といえば当然なのだが(いや観ろよ)。それでも、ゴスペルというスケールの大きさを感じる音楽は物語がクライマックスへと向かっていく後期のEDとしては相応しいものだと思う。実際、このEDだけを観てもそう感じる。

曲調がゴスペルになった事により曲のBPMが「ハートキャッチ☆パラダイス」に比べてゆっくりなものとなり、それに合わせて振り付けもキャラクターの素が出るようなモノではなく落ち着いた、地に足の着いた振り付けになっている。凝った動きは無く全体的に非常にシンプルな動きが多い。後期EDに特徴的なのが、腕を伸ばしたり脚を伸ばしたりと「身体の伸び」を感じさせる動きが多く、またモデリングもそれらの動きに対応しているため、まだぎこちなさの残っていた「フレッシュ」の時には無かった身体性や肉体を感じるような動きになっているようにも思える。具体的には「♪泣きたい時は 顔をあげて!♪」の両腕を下から上へと広げ頭から爪先までの波打つような動きや「♪おどろう 手に手をとって♪」での腕と脚を伸ばしきった前後での身体の揺れ具合などである。因みに前者部分での背景はキュアムーンライトとキュアサンシャインのそれぞれに合わせたものとなっており、場面転換もカットを切り替えるようなものでなく背景を舞台装置として演出しているのも面白い。

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背景といえばAメロでの教会内部のセットが良く出来ており、キャラクターそれぞれのイメージカラーが反映された巨大なステンドグラスは勿論の事、床にも向日葵や薔薇などのキャラクターをイメージしたであろう花が無数に咲いており、しかも曲に合わせて揺れているという非常に凝ったものとなっている。また、サビからの極彩色の巨木は本当に綺麗で、辺り一面に咲いている花からも察するにおそらく本作のテーマの一つとして「花」があるのだろう。曲、振り付け共にサビからの映像は観ていて本当に気持ちが良い。

そして何故か宇宙へと浮上するステージ。幾らプリキュアとは言え流石に生身で宇宙へ行くようなことは無いだろう、流石にイメージ映像だろうが(もしかして本当に行くのだろうか・・・)青い地球が綺麗である。それにしても最後のパワーアップ後の銀色のフォームは完全に小宇宙が燃えている様にしか見えない。

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総合的に見て後期EDに相応しい良い映像に仕上がっているとは思うが、モデリングについて一つだけ残念な点が。長身のキュアムーンライト一人の手足が長すぎるのと、陰影にグラデーションがかかっているせいで前期とは逆となる首から下だけ妙に生っぽい質感が出てしまっているので、動きのぎこちなさと相俟って違和感が噴出してしまっている事である。設定的にキュアムーンライトの身長だけが高くなってしまったのだろうが何とかならなかったのか。

続き
「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 3/5


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