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「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 3/5 [アニメCG]

前回「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 2/5

「スイートプリキュア!」(11年)
前期(第1話 - 第23話) エンディングテーマ曲「ワンダフル↑パワフル↑ミュージック!!」
登場キャラクター キュアメロディ(ピンク色)、キュアリズム(白色)
振り付け 前田 健


3DCG導入以降最もリアル寄りのモデリングとして、高橋晃のキャラクターデザインによって制作された「スイートプリキュア!」前期ED「ワンダフル↑パワフル↑ミュージック!!」。ぱっと見て分かるのが、素人でも分かる程の精度で制作された高いクオリティのキャラクターモデリングである。前二作とは比較にならない程のポリゴン数の多さとセルの質感が格段に良くなったシェーディングの表現。リアル寄りの「フレッシュ」にあった顔の凹凸によって生まれる影の違和感が全く無くなっている。またセル画調の表現としてのベタ塗りの自然さ、横を向いたときの違和感の軽減など顔の表情に関してはこの時点でほぼ完成しているといっても過言ではない。「静止画だと手書きとCGの区別が付かない」という褒め言葉が良く使われるが「スイート」に関しては正しくその通りである。特にバストアップ時の表情は本当に手書きのようである。

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また、顔のパーツがリアル寄りになったせいで髪の毛もアニメ的なデフォルメが軽減され髪の束一つ一つが細くなっており一見処理が大変そうに思えるが、髪の毛自体に影を焼付けつけているので角度が変わってもアニメ的な影の表現が崩れないようになっている。この処理に関してはキュアメロディを見ると分かりやすいだろう。髪の毛の揺れに関しても根元から毛先にかけて揺れ幅が調整されており、キュアメロディのツインテール、キュアリズムのポニーテール共に自然な揺れ方になっている。

ただこれに関しては「CEDEC 2012」で言われているようにモージョンビルダーで自動計算された分の不自然な揺れを手付けで直しているので、この頃はまだ髪の毛のような長いものの処理は難しかったことが伺える。蛇足ではあるがキュアメロディの髪にはまだボーン(間接)が少ない事によってまだまだ揺れが不自然に見えてしまっている。キュアリズムに関しては髪の分量もあってかそれほど不自然さは無いのだが、セルシェーディングの3DCGモデルにおいて髪の表現はどこまでフォトリアルに、要はどこまで髪の束を細くするべきかというのは永遠のテーマの様に思える。

そして、何よりも「フレッシュ」にも採用されていたペチコートのフリルの表現である。「フレッシュ」と比較して見ると揺れの表現が格段に良くなっているのが分かり、上部のスカート部分、多層のペチコートそれぞれの層が単に揺れだけでなく素材の重さや柔らかさを感じさせるような揺れ方をしているのがはっきりと分かるだろう。スカート、ペチコートそれぞれの折り目の数もかなり増えておりデザインとしても申し分ない。見事である。

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曲は「フレッシュ」に近いjazzyな曲調で振り付けも一つ一つの動作の継ぎ目の少ない全体に流れを感じる様なものになっており、前二作にまだ感じられた動きの繋ぎ目にわずかに見られる機械的な動きが解消されているように見える。このことからもモデリングの内部構造であるボーンやリグに関しては大幅なモデルチェンジがあった事が伺える。重心移動も大分自然になっており、Aメロの「♪スイートプリキュア♪」での床を滑るような動きの自然さ、「♪希望のトーン~♪」の脚でリズムを取る動作などはその典型である。繰り返すがモデリングとモーションデータの再現性は前二作の比ではない。本当に良く出来ている。敢えて苦言を呈するならば影のグラデーションによる不自然さがまだまだ残っているという点とキュアメロディの露出した腹部と衣装の境界線の表現が簡素であるという点くらいなのだが、まあ些細なものだろう。

後期(第24話 - 第48話) エンディングテーマ曲「♯キボウレインボウ♯」
登場キャラクター キュアメロディ(ピンク色)、キュアリズム(白色)、キュアビート(青色)、キュアミューズ(黄色)
振り付け 前田 健


キュアビートとキュアミューズが追加され、jazzyな前期の曲とは異なるピアノ、エレキ、アコギの刻みを主体としたリズミカルな曲調へと変わった後期ED「♯キボウレインボウ♯」。handclapをリズムの基本としているため体感に訴えかけてくるような非常にノリの良い曲になっている。また、曲を構成する楽器自体が少ないのでボーカルの抜けが良く聴きやすいのもポイントである。音楽をテーマにしているだけあって歌詞にも音楽の用語が多く使われ、かつ言葉の韻が多く踏まれているので非常に歌いやすく覚えやすい、何より歌っていて気持ちが良い。良い曲である。歌詞以外にも、Bメロの「♪前向いて 歩きだそう くじけない♪」と「♪空見上げ てをつなごう I NOTE♪」の部分は一音ずつ音階が上がっており、要は「ドレミファソ」と同じ要領で音が変わっているなど意識的かどうか分からないが芸が細かい。

ステージセットは前期と同じものの流用となるが、虹色の鍵盤や背景に浮かぶ大量の風船(この風船全部細かく動いているという凝りよう)、音符型のキャラや動く楽器達、妖精など兎に角物量、情報量が増えており画面内の密度が濃く非常に賑やかである。

プリキュアEDダンスシリーズの特徴として前期ではモデリングと演出それぞれにリソースを、後期では追加キャラに関しては前期のノウハウとアセット(モデリングの基本構造)の流用が出来るので演出に多くのリソースを、というような感じで前期と後期で力の入れ具合が変わってくるのでそれぞれに見所があり、どういった箇所が変化しているのを探すという楽しみ方も可能となっている。そしてこの「♯キボウレインボウ♯」は「ドキドキ」含め歴代のEDダンスの中でも前期と後期の差が最も大きいEDなのではないかと考えられる。あくまで素人目だが。

先ずこの頃から頻繁にキャラクターの「歯」が見えるようになっている。歯自体は前期の「ワンダフル↑パワフル↑ミュージック!!」でも見られたのだが数えるほどだった。歯以外にも通じる事なのだが前期の場合jazzyな曲調もあってか弾ける様な笑顔の場面が無かったこともそのひとつだろう。「♯キボウレインボウ♯」では前期と比べて笑顔以外の表情も飛躍的に増え、その幅の広さはキャラの表情からその性格が読み取れるほど。笑顔の際に歯が見えることは一般的には下品であるとされるが結果として「スイート」では歯を意図的に見せる事によって表情の幅が飛躍的に広がることとなった。これは大きな進歩である。

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歯以外でも、特にこの「♯キボウレインボウ♯」ではキャラ毎の性格に合わせた表情が良く表現されている。キャラ毎に分類すると、所謂漫画、アニメ的な目蓋を閉じた状態の線で表現する笑顔や口を横に広げた「にっ」とした笑顔の多い「元気」担当キュアメロディ、微笑み等の優しい笑顔がよく見られる「優しさ」担当キュアリズム、凛として澄ました笑顔の「クールビューティ」担当キュアビート、元気いっぱい小学生「OOコン向け」担当キュアミューズなど、EDだけを見ていても表れる表情からキャラの性格が垣間見えるほど自然な表情が表現できている。

表情以外では「CEDEC 2012」で言われた通り、モーションキャプチャデータが使えず全て手付けで動作をつけただけあって手首から上の動作が格段に良くなっている。手首の捻りや指の曲げ、反りなど指の表現だけ見ても多くのパターンが確認でき、細かい点ではあるがそれらがダンス全体に良いアクセントにもなっている。指といえば「♪知らずに心♪」でキュアビートとキュアミューズが人差し指を手前に指して指の大きさがパースの変化で強調されるのだが、この時セル画における輪郭線部分が強調されるような処理がなされているのが分かるだろう。これも「スイート」が初である。

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指先以外でもバストアップの際に良く分かるのだがキャラクターの輪郭線全体に強弱、つまりは線の太さが設定されており、手書きの特徴を3DCGでも表現しようとしているのが分かる。それもあってか、特に「♪I NOTE(愛の音)を奏であい 気合!和気 愛↑愛↑♪」 の正面からの四人のバストアップのカットは手書きと比較しても遜色ないレベル。

その他にも「♯キボウレインボウ♯」で追加されたキュアミューズに着目してみると、キュアミューズだけ他のキャラに比べて身長が頭一つ低くなっており、何でも9歳という歴代最年少プリキュアらしいのだが「ハートキャッチ」の時にあった頭身が高すぎたキュアムーンライトの様な違和感が全く無く、手足が短くても他の三人と踊っている様子に特に違いは感じられず、モデリングに関してはその辺りにも進歩が現れているように思える。また、キュアメロディ、リズム、ビートの三人が同じ形状のスカートを履いているのに対し、キュアミューズ一人だけが何故かバルーンスカートを履いており、しかもこのバルーンスカートの揺れが本当に良く出来ているのである。

実際にバルーンスカートを履いている人を見たことがないのであくまで想像上のものではあるが、バルーンスカートの形状から想像される「クラゲの様な動き」が再現されており、上部から下部へと波打つような動き、スカート内部の空気の層を感じさせる様な「ふわり」とした揺れ幅、飛び跳ねた際着地から僅かな間を置いて降りる感じ等、バルーンスカートのイデアというものが存在するのならば正にこれではないのか等と納得してしまう様な表現になっているのである。実に素晴らしい。

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モデリングもさることながら振り付け、引いてはダンス全体の演出も非常に凝っており、例えばAメロの「♪あきらめちゃ SONG! SONG! SONG!♪」から四人がそれぞれの音符型のステージに乗り個別にバストアップで映される場面では、奥に他のキャラを並べることによって手前のキャラでは表情を、奥のキャラで振り付けをそれぞれ見せており、ここではカットを切らずに縦の流れで繋げ、続く「♪笑顔レガート!♪」からはキャラを手前から奥へと並べそれに沿ってカメラも移動させることによってAメロ全体で映像の流れを生む、という振り付けとキャラクターの演出のどちらも両立させる見事なカメラワークになっている。

そしてサビへの転換である「♪知らずに心~♪」から拍に合わせて細かくカットを刻んでキュアメロディの握った両手のアップを映した後、サビと同時に4小節(16カウント)の間カメラを引きながらステージ全体を俯瞰でダイナミックに見せる。そしてその後のサビでは比較的カットを細かく割っているが、曲のリズムに合うように小節毎でカットしたり、2小節中(8カウント)後ろの2拍(2カウント)だけをアップで抜き出して映像にアクセントを付けたり、そしてその間も振り付けだけはしっかり見えるようになっていたりと本当に良く考えられている。

振り付け自体も「フレプリ」の時からあった「左右対称の動作」と「同じ動作の繰り返し」が継承されており非常に分かりやすく、何より見ていて気持ちが良い。特にAメロの「♪ピチカートで弾む気持ち♪」の動きは歴代の中でも特筆モノと言ってもいい程。先にも書いたがプリキュア以外のキャラも多く出ており画面が賑やかになっているのもEDダンスというコンセプトにも即しており、良い演出になっていると思う。

続き
「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 4/5


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