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TSUTAYAからの物体X [映画]

その男が映画を借りる時に選択の基準として一つ気を付けている事がある。

それは同じ質の作品はなるべく避けるという事である。映画は鑑賞する時の気分・雰囲気でその作品に対する印象・評価が大きく変わるモノであるため、ジャンルは異にしても作品の質が同じ様なレベルである場合なんとなく前の作品に対する印象を引きずってしまうからだ。日に二本観るような場合はなおさらである。

その日、男は店に入るやいなや脇目も触れず一直線に邦画の棚へと向かっていった。男は(最近の)邦画にはあまり興味がないため普段は観ないのだが、その日は違った。それはその日が半額レンタルという事でもあったが、何より兼ねてから待ちわびていた待望の作品がやっと準新作の対象になったのである。

そう「お姉チャンバラ THE MOVIE」が。

実は本作は準新作の対象には既に今月の頭からなっていたのだが思いのほか人気があったため、半額の日に待ちかまえて行ってもなかなか借りられなかったのである。しかし、この日は幸運にも四本ある内の一本が残っていたため何とか借りる事が出来たのである。

「ついに・・・。ついに我が掌中に収めたぞ!」
男は歓喜の雄叫びを店内であげそうになった。

しかし、喜びと同時に男は当該作品に対して殆ど期待していなかった。というのも本作が低予算モノである事は分かり切っているからだ。そして、自分の期待に添うようなレベルのアクション映画には到底なっていない、と。だが、そんな風に思いながらも心のどこかで応援に似た想いがかすかに存在している事も分かっていた。

そして、そんなB級作品を手に取った男はもう一つの作品の所へと向かっていった。数少ないレシプロ戦闘機のスカイアクションものの中でも戦闘シーンの評価が高いと言われている「フライボーイズ」である。これも以前から観たかった作品でその長さ故に迷っていたのだが(2時間18分)、今回「姉チャン」が短い分(86分)丁度良いだろうという事になった。

これで当初の目的は達成したが、せっかくの半額ということもあるため男は何かもう一本借りようという事になった。そういえばB級映画仲間の友人が以前「クライモリ」を進めていたが、久しぶりにホラーでも借りてみるか。男はそう思いながらホラーの棚へと向かった。

「クライモリ」と「ヒルズハブアイズ」を先に観ていた友人は「クライモリ」の方を勧めていたが、公開前から期待していた事もあってか男にとっては「ヒルズハブアイズ」はなかなかの高評価だった。そのため、両方観た友人があえて「クライモリ」を勧めているのだから結構良いのかもしれない。そんな期待も胸に秘め男は「クライモリ」を見つけたが、残念ながら既に借りられていた。

困ったな。
このわだかまりを抱えたままでは気分良く帰れない。男は同じホラーの棚から何か良い作品はないだろうかと探し始めた。そういえば友人は「遊星からの物体X」(以下物体X)も勧めていたな。そんなことを思い出した男は偶然にも近くに陳列してあった「物体X」を手に取り悠々とレジに向かった。

帰宅した男はさっそく「物体X」をDVDプレーヤーにねじ込み、カーテンを閉め、ヘッドホンを装着し鑑賞を始めた。男は「物体X」についての評判は幾らか知っていた。鬼才ジョン・カーペンターがおくる南極を舞台にしたエイリアンパニック映画。そして何より本作の見所はエイリアンそのものではなく、極限状況下で疑心暗鬼になる人間同士のやりとりであると。そのため、男はまっ先に借りに行った「姉チャン」よりも実は結構期待していた。

映画が始まると時代を感じさせるノイズの入ったフィルムに、モーターボートを持運ぶ若い男女5人が浜辺を歩いている。

ん?浜辺?舞台は南極のはずだがこれから行くのだろうか。男は妙な引っかかりを感じていた。そして夜の街を背景に時代を感じさせる音楽と共にオープニングが流れタイトルが登場する。「CREATURE FROM THE ABYSS」。

そう言えば「ザ・グリード」の原題は「DEEP RISING」だったか。そんな事を考えながらも映画は先へと進んでいく。そして、海に出る際に浜辺に燃料を置き忘れてしまったその一団は、燃料切れと共に海の上で夜を迎える事になってしまう。不運にもそこへ嵐が。焦る一団は何とか岸へと向かおうと手でこぎ、遠くに見える偶然通りがかった船に何とか到着する。

しかし、海のシーン長いな・・・。
そんなことを思いながら男は観ていたがどうにも違和感が拭えなくなってきた。幾ら待っても南極に着かないし、そもそも男女5人でしかも水着の格好である。そして舞台は海の上から船へ・・・。という事はどう考えても事件はこの船で起こるしかないだろう。となると一体南極はどこへ!?

男は混乱した。どう考えても自分の知っている「物体X」とは内容があまりにもかけ離れている。それに考えてみるとフィルムがかなり安っぽい。はっきり言ってこの頃のテレビドラマに使われている位の質のモノである。

まてよ・・・。そういえば・・・。

そう、男は気づいた。気づいてしまった。気づいてはいけなかった。気づかない方が良かった。男にとってそれは今までの映画人生の中であり得なかったからだ。

そうだ・・・。これって・・・。


そう、男が観ていたのは「遊星からの物体X」ではなく「深海からの物体X」だった。
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