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スカイ・クロラ - The Sky Crawlers - 感想 [映画]

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*注*本記事は多分にネタバレが含まれておりますので、鑑賞前の閲覧にあたってはご注意ください。



私はオリジナルかそれともコピーか。

クローン人間を題材に扱った作品は大抵この命題を中心にして、その上でアイデンティティの確立や己の生きる意味を模索するといった構造が展開されていく。自分は他人のコピーなのではないかという恐怖、全ては作りモノであり人格などは無く自分は只の操り人形なのではないか、といったものだ。フィリップ・K・ディック原作の映画「クローン」などはこの辺りの描写が設定・演出ともに良くできていたように思える。

「GHOST IN THE SHELL」「アヴァロン」「イノセンス」に通じる「精神と身体の乖離」「現世と来世」「現実と非現実」。私は原作を読んだ事が無いので何とも言えないが、明にせよ暗にせよ、本作にもこういった命題が提示・示唆されているのはやはり押井監督作品である事の必然なのだろうか。

大人に「ならない」子ども達、キルドレ。

単なる戦争の駒であり、見せ物の一道具である事を自覚する彼らは日常的な死の中で「大人になる意味」を否定する。自分達が既に「子ども」ではない事を自覚していながら、あえて意識的にかつ常に「子どもだから」というロジックを使おうとする彼らは何を想うのか。

「子ども」を演じながらも、戦闘が終わった後は女性と共に夜を過ごす。そして、あらゆる場面でクドい程描写され、私は「大人」ですよと誇示するかのように煙草を吸う彼らの様は、「子どもの皮を被った、大人を演じる子ども」という非常に歪んだ性格を有している(あるいはその逆か)。そしてそれは、途中「純粋な子ども」が登場する事によってより色濃く映し出される。

また、劇中に登場する「大人」は「子ども達」に干渉する事なく、その表情にも感情が灯る事は殆どない。まるで死んでいるかのようなその眼で「生」(死)へと飛び立つ「子ども達」を見る彼らは、憐憫や同情を抱きながらも何も言わずただ傍観者を決め込む。

「生を奪われた子ども達」が自己を模索しながら、苦悩・涙し、引き金を引くそれらが、「死んでいく大人」よりも余程生命力に溢れているように感じられるのは気のせいだろうか。

「今日のような昨日」「昨日のような今日」が繰り返される中で、「私達は同じ所を回り続いている」と言われた彼は自らもその可能性にある事に気付く。その想いを内に秘めてか、自身のための戦いとして「I kill my father」と言いながら彼は空へと散っていった。

まるで自らの運命を悟ったかのように、残された者に対して「生きろ」と言いながら「親殺し」へと向かっていった彼は、その行為によって自らを確立したのかもしれない。それによって自身を否定したのか肯定したのか、収束と解放へと向かった彼は「何を」得たのだろうか。

押井監督は「現代の若者に対して伝えたい事がある」と話していた。

かの手塚治虫は生命を問うためにその主人公を不死の者にした。「死ねない者」が「死にゆく者」見ることによってこそ「生きる意味」が初めて表象されるのではないか、と。「生を奪われた子ども達」であるキルドレの一挙一動によって浮き彫りにされる「生きる意味」。

いつも通る道でも
違うところを踏んでいくことができる

まるでお互いの存在を確かめ合うように求め合った二人は果たして見つける事が出来たのか。即時的で即物的。形骸化した生命の中で繰り返される日常。人間以外によって支配されつつある現代社会の中で私達は違うところを踏んでいけるのだろうか(少なくともこれを書いている限りは踏んでいるのかもしれない)。


とまあ、事前情報を全く仕入れずしかも昨日観てきたばかりなので、はっきり言って殆ど考察は出来ていないしまともな結論も出ていないが、それを言葉にしたいと思わせる程の作品ではあったと言いたい。

特に戦闘シーンは特筆すべきモノで、監督が「空中戦でこれ以上のモノはないだろう」みたいな事を言っていただけの事はあり、普段は半分よりも後ろで観ている私も今回ばかりは前の席で観て正解だったと思える程迫力があった。

3DCGに関しても所々にトゥーンシェード・レンダリングの処理が使われていたみたいだが、基本は金属感むき出しの、あえてセル画と違和感を出させるような書き方をしているのに、逆にそれが「地上」と「空」を区別しているようで妙に納得してしまったところがある。

というわけで、まだ本編を観ていないのにネタバレ満載なこの記事を見ている人は是非観に行って欲しい。それも前の席で。おそらくレシプロ機にたいする興味がちょっと沸くかもしれない。

それにしても括弧が多いな・・・。



スカイ・クロラ

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  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/06
  • メディア: 単行本



スカイ・クロラ総設定資料―押井守監督作品

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本



アニメはいかに夢を見るか―「スカイ・クロラ」制作現場から

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本



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