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『Go!プリンセスプリキュア』EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 [アニメCG]

前回「プリキュア」EDダンスから見る技術、演出の変遷と3DCGアニメの可能性 7/5

『Go!プリンセスプリキュア』(15年)
前期(1話 - ) エンディングテーマ曲「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」
作詞:マイクスギヤマ 作曲:山本清香 編曲:多田彰文 歌:北川理恵
登場キャラクター キュアフローラ(ピンク色)、キュアマーメイド(青色)、キュアトゥインクル(黄色)
振り付け:MIKIKO

「ハピチャ」前期ED「プリキュアメモリ」から実に一年ぶりとなる。本来であればこれを書く前に後期ED「パーティハズカム」についての記事を書いていたはずだったのだが、後期ED変更時は丁度他作品が盛り上がりを見せていた時でそれらをチェックしていたというものあり、それら他作品の書きやすい記事を優先して書いていたせいで気付いたらアニメージュに「パーティハズカム」のメイキング特集ががっつりと掲載されてしまったのである。本編の3DCGについても後出しじゃんけん的に今更書くわけにもいかないので劇場版含め記事を書くのを諦めてしまった次第(だからあれ程早く書けと・・・)。

キャラクターデザインはハピチャと同じくアニメーターからの起用で中谷友紀子、ED曲の作詞はアニメ作品の主題歌を多く手掛けるマイクスギヤマ、作曲は劇半等の経験のあるクラシック畑からの山本清香、編曲はアニメ作品の作曲を多く手掛ける多田彰文、歌は舞台俳優として活躍している北川理恵、そしてダンスの振り付けはドキドキからのお馴染みMIKIKO、とまた大きく変わった『Go!プリンセスプリキュア』前期ED「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」。

プリンセスのイメージから連想されるようにイントロは優雅な3拍子の円舞曲(ワルツ)で始まる。作曲の山本清香がクラシック畑の人という事もあってかヴァイオリンやチェロなどのストリングスは実際にスタジオで収録された生音が使われており、ワルツという事も含め従来のEDにはない優雅さが表現されている。イントロ後の3拍子から4拍子へと曲調が変化した後もハイハットシンバルのリズムをメインとしたドラムとストリングスのメロディラインをベースとした構成となっており、打ち込みの音源がメインとなっていた従来の楽曲とかなり毛色が異なっているので新鮮である。

4拍子の曲調に変化してからはシンセ等の打ち込みの音も加わるが楽器の基本的な構成は変わっていないのでワルツの部分との乖離も少なく、舞踏会をイメージした映像と音のイメージも合っている。「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」は外部からの血が良い方向へと作用しているように感じる。聴いていて心地良い。因みにワルツとはドイツ語の回転運動を意味する「waltzen」からきているらしく、イントロとアウトロでワルツの曲調の構成となっているこの円環構造は意図したものかは分からないが曲調に沿ったものになっている。

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メンバーはキュアフローラ、マーメイド、トゥインクルの3人となっており、フレッシュ前期ED「You make happy! 」以来久しぶりの3人構成である。3人構成の利点は三角形の配置による奥行きの表現と画面の収まりの良さからくる見た目の美しさ等が挙げられるが、関係性が強調される2人組や物量によって表情が豊かになる4人、5人組とは異なる「3」という数字から生まれる構成の妙がある。

3カウントというのが人間の生理に非常に合っているのは日常生活で体感しているので分かると思うが「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」においても例えばAメロBメロサビの3段階、3拍子のワルツ、左右の二人からセンターへ繋がる3つのカット割、3人の時間差で繋がる振り付け(下画像)等が挙げられるが、特に振り付けに関してはAメロ以降での4拍子のリズムの中での3人構成の場合「拍」に余裕が生まれるので「見得を切りやすい」という利点がある。これを2人や4人以上でやろうとすると拍が余ったり逆に足りなかったりと中々難しい。
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プリプリの各キャラクターのモデリングを見てみると先ず一見して分かるのが手足が非常に細いという事。前作のハピチャの様な肌の質感が強調され身体のラインとしては最も現実に即していたモデルと比較するとかなり細い。頭身のバランス含めハトキャのモデルと同程度の細さである。これはプリンセスという女性の理想像、特に子供が好む人形の様な美しさ、可愛らしさを表現するためと考えられる。おそらく人によっては細すぎるとも思われかねない位だがこの手足の細さによってメインとなるドレスが強調されるようにもなっている。

仮にハピチャの3DCGモデルの手足の太さをそのまま持ってきた場合を想像して欲しいが、色んな意味で間違いなくアウトである。プリプリのドレスは舞踏会で着る様なフォーマルなドレスのデザインに近いので見栄えとして特に足に関しては細いほうが良い。
03.jpgまた、手足が細いことによってポージングが映えるという利点もある。手足が太いと全体的に曲線のラインが増えてしまうが手足が細いと全体に直線のラインになるので姿勢の美しさが際立ち非常に見栄えが良いのである。

04.jpgフェイシャル部分を見てみると鼻の輪郭線の表現として「く」の字のラインが眉毛の位置からはっきりでるようなデザインになっている。ここまではっきりでているという事は明らかに意図してこうしているのだろうが、これも「プリンセス」のイメージからくるものなのだろう。

西洋人の特徴として良く挙げられる「鼻の高さ」だが、西洋のドレス、それもゴリゴリの舞踏会ドレスなので寧ろコレくらいの鼻の高さの方がいいのかもしれない。特にマーメイド、トゥインクルに関してはツリ目かつフローラよりも年上という事もあるのでその点では違和感は無い。好みが分かれそうではあるが。

そう考えるとフローラだけが平坦な日本人顔に近いというのはその主人公的性質からしても理解できる。また、3人とも顔の大きさに対して目の占める割合が大きく、バランスとしてはスマイルやハトキャに近いので特にフローラに関してはタマゴ顔ということもありフェイシャルのモデリングはブロッサムに似たような印象を受ける。鼻の輪郭線の処理の表現も然り。

歴代の目のデザインと比較してみよう。
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フローラ単体としてはスマイルのデザインにかなり近いがバランスはハピチャに近い。大きいハイライトが3つあるので引き絵でも目の形がはっきり分かる、つまりは目の表情が読み取れるようにもなっている。アイラインは太めだがまつ毛が細いのでクドい印象も無い。歴代と比べてみると顔の表情は抜きにして目だけを見るとフローラの目はそれだけで非常に明るい印象を受ける。歴代で一番綺麗と言っても過言ではないだろう。そして眉毛が太い。

フェイシャルのモデリングに関しては歴代でもそれぞれセルルックに対するアプローチが変わっており、プリプリではフェイシャル部分の陰影表現はかなり控えめになっている。特定のライトに対して左右のどちらを向いても顔に影は殆ど落ちないようになっており、フェイシャル部分で影としてはっきり表現されているのは下唇のラインと目蓋の三角部分、そして前髪部分だけである。前髪による影もかなり薄いのでセルルックとしては歴代でもかなり平坦な顔の見え方になっている。

11.jpgライティング含めフィルターによってAメロBメロはキャラクター含め映像全体が柔らかい印象になっており、この場面はセルルックの質感としてはスマイルのEDのバックで流れていた小芝居パートの質感に近いような温かみのある質感になっている。特にAメロ前後のマーメイド(下画像)は色づけされた少女漫画の絵柄のキャラクターがそのまま動いているような絶妙な質感になっている。
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10.jpg「ハトキャ」以降、笑顔の際に歯がのぞく演出が続いているがプリプリでもそれは行われている。ただ従来のものと比べるとかなり控えめで、それもそのはず格式高い上品な舞踏会のダンスの場での歯が見えるような大きく口を開けた笑顔はNGなので当たり前なのだが。

なので、右の画像(キュアロゼッタ)の様に今までのプリキュアEDダンスで見られた等身大の可愛らしさが感じられるような口を大きく開けたり歯が見えるような笑顔は少ない。全体的に笑顔は控えめになっており微笑む程度のものが多く、大きく口を開けても歯が見えない上品な笑顔が殆どとなっている。

陰影表現としてもう一つ。ドレスを良く見てみると衣装部分の影だけはフローラがピンク、マーメイドは青、トゥインクルは黄色それぞれ特定の色の影が落ちるようになっている(上に挙げた左手を前に伸ばしている画像参照)。これは画像では分かりにくいので動画で見たほうが良いだろう。ドレス全体を見ると光沢のあるスカートの質感や金属光沢のあるアクセサリー、そして写実的な舞台装置や背景のアニメーションにより、セルルックとして見ると映像全体としては実はそれほどでは無いが先に述べたようにキャラクター単体で見ると歴代の中でも非常に良く出来ている。「プリキュアメモリ」の時もそうだったが、セルルックな質感表現に関しては「よく見てみると実は」という事があり、写実的、立体的な背景につられて3DCGモデルもセルルック感が無くなるという事があるのでなかなか難しい。

なのでプリプリの3DCGモデルは前述した手足の細さなどから見てもに明らかに手書きの本編と瓜二つという方向性では無い、3DCGモデル単体としてのセルルック感の完成度の高さを表現しているように感じる。ドキドキ→ハピチャ→プリプリと比較して見てみると、特にドキドキのモデルに感じられた3DCGらしいエッジの効いた質感の部分が徐々に削ぎ落とされており3DCGモデルとしても映像全体としても柔らかくなっている印象がある。

陰影が少なくデジタル作画によるベタ塗り感と光沢のある3DCGモデルのドキドキ前期(左上)、フェイシャル部分の陰影が無くなりより平面的な質感になったドキドキ後期(右上)、チークの赤みやハイライトによって肌の質感や温かみを敢えて表現したハピチャ前期(左下)、はっきりとした陰影表現でありながらセルルック感もある粘土のような柔らかい独特の質感のあったハピチャ後期(右下)。
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※クリックで拡大
プリプリの3DCGモデルは衣装の複雑さ、髪の毛の形状など3DCGモデルとしては明らかに歴代でも複雑な形状でありながらそれを全く感じさせない、シンプルな線と面で構成されたような正に「削ぎ落とした」という言葉が相応しいセルルック感のあるモデリングに仕上がっている。

さて、肝心のドレスについてだが、通常形態のドレスでは各キャラクター毎にモチーフとなっている要素を元にデザインがされている。キュアフローラの花を模したティアラ、イヤリング、ネックレス。キュアマーメイドの貝を模したティアラ、イヤリング、真珠のネックレスや人魚のヒレをイメージさせるオーバースカートのデザイン。キュアトゥインクルの星を模したティアラ、イヤリングや五芒星のスターをあしらったようなドレスのデザインなど。

フローラとトゥインクルのドレスに特徴的なのがアンダースカート部分のシフォンパニエである。
左はプリプリの二人、右はフレッシュのキュアピーチ
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パニエの先端である裾の部分が多層構造のモコモコした形状になっているのが分かるだろうが、これに近いのはフレッシュの3DCGモデルにも見ることができる。フレッシュの時は初の3DCGモデルでのダンスだったので当然現在のものよりも技術的な部分では劣ってしまうため、あの時はお世辞にもパニエの質感が出ているとはいえなかった。

zzz.gifだが今回はその見た目からくるモコモコした質感が再現されており揺れ具合は勿論のこと、付け根部分の太ももの動きに合わせて足とパニエの接地面の形状が変化し、弾力のある質感が表現されるようになっている。




こういった質感表現の場合単純に太ももの動きにめり込ませただけにした方が技術的には楽なのだがそうさせない辺りにドレスへのこだわりが感じられる。因みにマーメイドだけはパニエを履いておらずスカートのみになっているが、これはマーメイドが生粋のお嬢様であり精神年齢も高いキャラクターだからなのだろう。余談だが歴代の中で最もスカートの揺れが素晴らしいのはスイート前期EDなので是非観るように。

12.jpgフローラのオーバースカートやマーメイドのスカートの表面を見てみるとラメの質感が表現されており、光の反射で煌めく様になっているのだが、こういった点を見るだけでもプリプリの3DCGモデルが単にセルルックのみを至上命題としているワケではなくドレスの質感をあえて強調しているのが読み取れる。

21.jpg因みに会釈をする時やターンのステップを踏む時にスカートを掴んで軽く持ち上げる仕草をしているが、こういった「手が衣装に干渉する状態」というのはEDダンス史上初だったりする。この時、ドレスを摘むのは人差し指と親指だけで他の指は反っているのも芸が細かい。この「反った指」の表現は各所に見られ、それ以外にも手を握る時に女性らしさが感じられるような手つきになっているなど、舞踏会のダンスというだけあって指先の動きまで優雅さがあり丁寧に演出されているのが見てとれる。

特に「♪アン ドゥ トロワ♪」の時のフローラの指の動きは特筆モノで、おそらくこれは手付けなのだろうが正に優雅と呼ぶべき見事なものである。
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アウトロ部分での変身した後の「モードエレガント」では基本のドレスにボトムスのスカートがそれぞれ追加されたデザインになっている。
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キュアフローラは赤、ピンク、白で構成された大きく広がったスカートに花の留め金のついた大きなリボンのあるプリンセスラインのドレス。大きなリボンや配色からイメージされる純粋さ、無垢さ、可愛らしさなどが中学1年の春野はるかの幼さにや主人公としての存在に沿ったものに。これは、中学生でありながら御伽噺のプリンセスに憧れる春野はるか自身が想像するプリンセス像そのものであり理想の姿でもある。

改めて見ると髪の毛の盛り具合が凄く、所謂お姫様チックな印象を多分に受ける。オーバースカート、大きなリボンがいくつも付いたスカート、多層のティアード含め5層にもなったスカート部分は何とそれぞれが独立して動きに合わせて揺れており、おそらくこれも予め揺れを自動生成したした後にそれぞれめり込んだ部分を手作業で修正していったのだろう。非常に手が込んでいる。

キュアトゥインクルはフローラ程ではないが釣鐘上にスカートが膨らんでいるベルラインのドレスへと変化し、3層のティアードには指し色として紫が入ったスカートのデザインとなっている。胸のリボンにも紫の指し色が入っており肩も露出しているので、同じ幅の広いドレスのデザインでもフローラよりも落ち着いた印象がある。

キュアマーメイドはその名前の通り身体のラインがはっきりと出るようなマーメイドラインのドレスで、真珠や貝殻をあしらったアクセサリー含め海を連想させる青を基調としたデザインとなっている。人魚のヒレを模したデザインのオーバースカートが無くなった代わりに、シャコガイを思わせるような腰から足元へかけて伸びる大きなフリルのついたタイトなスカートを履いているが、これは学園のプリンセスとして周囲から尊敬され、憧れの存在とされている大人びた印象のある海藤みなみのイメージそのものだろう。フローラやトゥインクルと比べて大人っぽい落ち着いたデザインになっている。

こうしてみると基本のドレスとモードエレガントのドレスのそれぞれに3人の個性が表れており、デザイン、モチーフ、アクセサリーのどれもがキャラクターに沿ったものになっている。と言うより寧ろ本編を観ていなくてもドレスや髪型、顔の表情で3人のキャラクターが思い浮かぶようなデザインになっているので本当に良く考えられている、こだわりが感じられるものになっている。ここまで衣装に意味が込められているのも歴代で初めてだろう。

3DCGモデルへの言及はこれ位か。
本作のEDダンスの制作にも名を連ねている「プリキュアメモリ」ディレクターの宮本浩史氏によると「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」では実写経験のあるスタッフが中心となっているとの事で、


「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」のディレクターは実写ドラマ『女信長』でVFXディレクターを担当していた鎌田匡晃が担当している。この人は『ハトキャ』前期ED「ハートキャッチ☆パラダイス!」のディレクター池田正憲と共にクレジットされていたのだが(多分共同監督的な位置?)、成る程「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」は確かにアプローチとしては実写寄りである。

プリキュアEDダンスはセルルックな3DCGモデルのキャラクターを使うというアニメ寄りの表現を用いながらも映像全体の演出はアニメと実写の双方が入り混じるものとなっており、それらの按配はディレクターの趣味や嗜好によって大きく変わる。
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例えばスマイル前期「イェイ!イェイ!イェイ!」(画像左)とハピチャ前期「プリキュアメモリ」(画像右)を担当した宮本浩史氏の両作品は背景に演出される「小芝居パート」やその平面的演出から分かるように「アニメ的演出」がよく見られる。
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一方でドキドキ後期ED「ラブリンク」(画像左)、ASNS3のED、そしてハピチャ後期「パーティーハズカム」(画像右)等を担当した日向学氏の作品はライブステージの舞台装置やライティングの演出、キャラクターの質感表現など実写寄りの表現がよく見られる。

「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」ではイントロの光の粒子が舞う演出やコントラストの高いライティング表現、巨大な舞踏会の舞台装置など全体的に実写寄りの表現が多い。またカメラ手前のキャラクターが見切れたりカメラを横切る背景のオブジェクトにピントが合ってなかったりと今までになかった極端な被写界深度の表現も見ることが出来る(下画像)。
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ドキドキ前期ED「この空の向こう」でも奥のキャラクターが多少ぼやける位の演出はあったがここまではっきり行われているという事はライブステージにおけるカメラワークを意識しているのは明らかだろう。ただ、プリキュアEDダンスの場合、あくまで「女児が踊れること」が大前提なので実際のライブステージのような凝りに凝ったカメラワークや演出は出来ないしその必要も無いと個人的には思うのでコレ位が良い按配ではないかと。映像に凝り過ぎてダンスが分かりにくかったら本末転倒である。

一つ難点を挙げるとすれば、サビでの幕が上がった後の舞踏会での映像が全体的に輝度が高すぎて正直眩しいのと、そのせいでキャラクターも背景の会場も白飛びを起こしてしまっており、特に背景に関しては床の大理石の質感など被写界深度演出と白飛びのせいでディテールが分からなくなっているのでもう少し輝度は下げたほうが良いのではないかと。

「ドリーミング☆プリンセスプリキュア」では前作に引き続きPerfumeでお馴染みのMIKIKOが振り付けを担当しているが、急激に難易度が上がった前作「パーティハズカム」の反動からか大分分かりやすい振り付けになっている。スマイルまでのマエケンの振り付けの様な、右向きで行った動作を左向きでも行うバランスのとれた振り付け、センターでの両手で行う動作は何をどのタイミングでどこへ向けて行っているかが分かる様に、素早い動作は控え基本2拍(2カウント)で一つの動作にする等、見た目としての分かりやすさは勿論の事、動作毎にぶつ切り感の無い「流れのあるダンス」になっている。なので見ていて気持ち良いし、何より踊ってみたくなる。これが一番大事。

似たような動作の連続、細々とした動作は控え、腕にしろ脚にしろ動きのベクトルをはっきりさせる。右へ行ったら左へ、上へ行ったら下へ、右に回転したら左へ。そして所々に「見得を切る」ポーズを入れる事によって全体の流れに緩急が生まれる。特に「♪舞踏会 幕よ 上がれ♪」の後の静止したポーズは何度見ても気持ちが良い。またその後の「♪ゴージャス プレシャス shall we dance 憧れのステージ♪」も流れが素晴らしく良く出来ている。振り付けに関しては言う事無しである。


と、長々と書いてきたが前置きはこれ位にしてここからが本題。

モードエレガントのドレスに変身した後アウトロに向かって3人が並んで挨拶をするのだが、この3人が並んで手を繋ぐ寸前にキュアトゥインクルがフローラの手の位置をチラッと目で確認するのを見る事が出来る。多分これには気付いた人も多いと思うが、では何故トゥインクルはフローラの手の位置を確認したのか。
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この場面、3人が画面奥へ一歩進んだ後正面へと回るのだが、プリンセスラインのフローラとベルラインのトゥインクルはスカートの幅が広いのでお互いがギリギリまで寄らないと手を繋ぐのは難しい。マーメイドはタイトなスカートなのでフローラとの距離を気にする必要は無く、実際回ってからは微動だにしていない。なのでトゥインクルは正面を向いた後フローラとの距離を一度確認する必要があり、この場面良く見てみると回った後にトゥインクルがフローラ側へヒョコっと一歩移動しているのが分かる。つまりこのトゥインクルの視線移動は「フローラと手を繋げる距離に詰められたかどうか」の確認なのである。

そして繋いだ手を上げ挨拶した時、こういった社交の場に慣れているのだろう最初からアルカイックスマイルで全く姿勢のブレないマーメイドに対して、嬉しさのあまりからか思わず顔が綻んでしまうフローラは等身大の中学一年生らしさが表れている。
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その後フローラから順に会釈をしていくのだがマーメイド、トゥインクルと続くその瞬間、トゥインクルが「ある仕草」をするのが見える。分からない人はこのまま読み進める前にトゥインクルの右手に注目してもう一度見て欲しい。下画像の1秒くらい前である。
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この仕草に気付いた時、ぞわっとした感覚に襲われ良い意味で全身が総毛立った。

見てはいけないものを見てしまったというか、兎に角衝撃を受けてしまい目を疑ってしまった。このトゥインクルの仕草はおそらく自分の挨拶が最後なのでそのタイミングを計っていたのか、あるいは無意識の内に予備動作として行ったものなのだろうが、この仕草が行われた瞬間に「『ドリーミング☆プリンセスプリキュア』という演目を演じるプリキュア」という素の部分が垣間見られメタ構造が表面化しているのである。

今までにも、というか3DCGダンスの始まったフレッシュ前期EDの時点でキャラクターがカメラを意識したような演出は既に行われていた。回を重ねる毎にキャラクターのアドリブ的演出やキャラクター相互の掛け合いなど素の表情、等身大の中学生的な側面が見られる様にもなっていた。

だが、このトゥインクルの仕草がそれらと異なるのはこれが演出でも何でもなく、演目を演じる上で無意識に「出てしまった」行動だという点である。前者が「目的」とするならば後者は「手段」あるいはその前段階と考えると分かりやすいだろうか。なので演者が何かを「行おうとしている意思」が表面化しており、そこに衝撃を受けてしまったのである。

2014年2月のハピチャの放送に合わせ、それまで知らなかったセルルックの3DCGキャラクターが登場するアニメ作品を色々観て来たが、こんな演出は初めて観た。基本的にプリキュアのEDは女児に踊ってもらう事が大前提なので演出面での制約は他の作品に比べて多い。他の作品が手書きと遜色ないセルルックの表現や凝りに凝ったライブステージの演出に邁進している中、プリキュアのEDダンスはそれとは違う演出面でキャラクターを魅せる道を進んできた。そんな他作品に比べ演出に制約のあるプリキュアEDダンスが、他のどの作品もしなかった演出によって、セルルックのアニメCGの歴史においてとうとう一線を越えてしまったのである。

ハトキャ前期EDでの来栖えりかの歯の見えるいたずらっぽい笑顔、ハピチャ前期EDでのキュアラブリーの苦笑い等、ほんの些細な演出がEDの映像全体の印象を一変させてしまう演出は今までにもあった。しかしこれはそういったレベルではない、何か根底から覆されてしまったというか、言葉足らずで申し訳ないがいやはや凄いものを見せられてしまった。

とは言ったものの実はこの演出、プリキュア以外の作品では構造的に出来ないのである。何故なら「劇中のキャラクターが3DCGになってEDで文脈に関係なく突然踊る」という演出をしているのはプリキュアだけなのだから。プリキュアEDダンスというのは存在自体が劇中劇的なメタ構造をとっているので他の作品は真似しようがない。なので前述した「演者が演目を演じようとしているその無意識」なんてものはプリキュアEDダンスでしか出来ない、独擅場とも言える演出なのである。だからと言ってこの演出の魅力がスポイルされるワケでは全くないが。

ドキドキの前期EDで始めて知り、フレッシュのEDに衝撃を受け、ハートキャッチのEDの魅力に取り憑かれ、スイートのEDの完成度に驚き、スマイルのEDの表現に感激し、ハピネスチャージのEDの隙の無さに唸り、次は果たしてどんな方向で来るのかと待ち構えていたのだが、Go!プリンセスプリキュアは文字通り「次元が違った」。

本編ではハピチャに引き続き3DCGモデルが採用されバンク以外にも使用されていくようだが、この(手間のかかる)ドレスのキャラクター達をどう動かし演出していくのか楽しみで仕方が無い。キャラクターデザインやEDの楽曲含め新しい血が上手く作用しているようでこれからに期待がかかるが、先ずはCGディレクターの鎌田匡晃氏を初めとする東映アニメーションデジタル映像部のスタッフ並びにEDの制作に携わった多くの方々に感謝の意を示したい。



参考資料
・アニメージュ ハピネスチャージプリキュア! 特別増刊号
・アニメCGの現場2015
YAMAHA 楽器解体全書
ウエディングドレス基礎知識 nicora decora
ウエディングドレスの種類 ウエディングドレスの総合サイト
ゴシックロリータ[ゴスロリ]@Wiki
ヴァイオリニスト友馬の音人(オトナ)な生活



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フレッシュプリキュア! のEDダンスについて
ハートキャッチプリキュア!のEDダンスについて
スイートプリキュア♪のEDダンスについて
スマイルプリキュア! のEDダンスについて
ドキドキ!プリキュアのEDダンスについて
ハピネスチャージプリキュア!のEDダンスについて
補足
Go!プリンセスプリキュアのEDダンスについて
『Go!プリンセスプリキュア』3DCGモデルによるセルルック表現
3DCGモデルによるセルルック表現[キュアフローラ編]

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「アイカツ!」第71話 霧矢あおい「prism spiral」にみる振り付け。
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「アイカツ!」第103話 氷上スミレ「タルト・タタン」での3DCGライブ演出。
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『アイカツ!』第118話 藤原みやび「薄紅デイトリッパー」の3DCGライブ演出
『アイカツ!』第123話 大空あかり「Blooming♡Blooming」の3DCGライブ演出
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