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扉は閉ざされたまま 読了 [本]

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密室トリックというとどことなく地味な印象がある。それは「ミステリー小説」という言葉を抜きにして考えたとしても同じである。密室トリックである以上舞台はその部屋に限定されるため、そこでの人物によるアクションは制限される。躍動感はなく、目の前の謎を解くため必然的に会話が増えていく事になる。だから、地味という印象を憶えずにはいられない。
と、思っていた。少なくともこの「扉は閉ざされたまま」を手に取るまでは。
というのもその偏見は、そもそもミステリー小説を殆ど読んだ事がなく、密室トリックというといつも昭和のイメージが先行してしまう私の経験不足からなるモノだからである。だから本著を手に取った時も「買ってはみたもののどうにも気乗りしないがページ数も少なさそうだから読んでみよう」というあまり褒められない態度で読もうとしていた。まあ、例の如くそれは文字通り粉々に粉砕される事になったのだが。

石持浅海の文章は平凡である。いや平凡とすら言えないのかもしれない。少なくともその描写をするにあたって表現の手段として用いられる「文章」ははっきりいって面白くない。つまらない。ただ状況が説明され、言葉が紡がれることなく羅列されていく、淡々とした文章。空気感や触感、嗅覚や味覚が刺激される事は全くない。それ位面白味のない文章である。

だから「物語が展開していく」部分まで読み進める途中で一度後悔してしまったのである。文章に面白味がないけど大丈夫なのか。これが本当に「このミス05年」で2位をとった本なのか、と。だがこの杞憂も例の如く塩をかけられたナメクジの如く溶かされる事になるのであった。

もうお分かりかと思うが、本著は面白い。それもかなり。面白さが余りあって本からよく分からないモノが出てくる位である(出てこないが)。前述した本著の評価を下げる点は確かに気にはなったがそれは後に全く気にならなくなるだろう。何せそれすらどうでもよくさせてしまうのだから。それ程に読み進めてしまう面白さが本著にはある。

先入観を持たせたくないので情報はあまり出したくはないが、本著を一言で表すなら正に「知と知の攻防」である。密室殺人を完遂した犯人とそれを暴き出す探偵(便宜としての)が己の頭脳だけを頼りに如何にして相手を出し抜き、翻弄するか。「密室トリック」という装置を逆手に取った作者による捻りの利いた展開は、登場人物の個性と相俟って読む者に考える暇を与えず、その圧倒的なリーダビリティによって止め時を失わせる。

手がかりが全くない現場から微かに読み取れる僅かな「違い」が探偵の圧倒的な論理と知性によって徐々に「証拠」という名の点となり、その増えていく点は探偵の手によって次第に犯人へと繋がる一筋の線となっていく。その推理力にカタルシスを憶えながらも同時に追いつめられていく犯人を見ながら、読み手は自分の手に汗がにじんでいる事に気が付く。そして、読み手は探偵によって自分も追いつめられている事に気付かされるのである。

本著も「ボーンコレクター」同様(ボーンコレクターの感想は次回以降にでも)、物語そのものに仕掛けられているトリックはその面白さにあまり寄与するモノではない。登場人物の魅力という点は幾分かはその内訳に入っているだろうが、それよりも「読み進めてしまう状況と展開」が圧倒的に大きいだろう。私は一度寝る前に読んでみたが興奮してしばらく寝付けなかった事があった。個人差はあるだろうが、少なくとも寝る前には読まない方が良い事は確かである。

ああ、面白かった。


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